パクス・モンゴリカ

Pax Mongolica（モンゴルによる平和）：ユーラシアを繋いだ繁栄と苦難の時代

13世紀から14世紀にかけて、ユーラシア大陸に広大な版図を築いたモンゴル帝国。その支配下にあった時代は、Pax Mongolica（パクス・モンゴリカ）またはPax Tatarica（パクス・タタリカ）と呼ばれ、相対的な平和と安定がもたらされたとされています。これは、古代ローマ帝国の平和を意味する「Pax Romana」になぞらえた表現です。ただし、Pax Mongolicaは、ローマ帝国のような全世界的平和とは異なり、ユーラシア大陸の一部地域に限られたものであり、中国を中心としたPax Sinica（パクス・シニカ）とも区別されます。

モンゴル帝国によるユーラシア大陸の統一は、陸路による交易を飛躍的に発展させました。それまで分断されていた地域が繋がり、人々は自由に往来できるようになりました。モンゴル政府は関税を撤廃するなど、商業を積極的に促進したため、交易は盛んになり、経済は活況を呈しました。

この交易ネットワークは、モンゴル帝国の直接支配下にない地域にも波及しました。日本、東南アジア、インド、中東、北アフリカ、ヨーロッパといった地域も、海路を通じてこの交易ネットワークに組み込まれ、間接的に経済的恩恵を受けました。各地の文化交流も盛んになり、多様な文化が交差する時代となりました。

しかし、Pax Mongolicaは、征服された人々にとって必ずしも平和な時代ではありませんでした。モンゴル帝国の支配は、多くの民族に苦難をもたらしました。自国の独立を失い、支配者の圧政の下で暮らす人々も多くいました。これは、「タタールのくびき」という言葉に象徴的に表されています。

また、14世紀に発生したペストの大流行は、モンゴル帝国による広大なユーラシア大陸規模の交易ネットワークが、感染症の拡大に大きく貢献した側面も指摘されています。人や物の移動が容易になったことで、ペスト菌が短期間で大陸全域に広まったと考えられています。

このように、Pax Mongolicaは、経済的繁栄と文化交流をもたらした一方で、支配された人々にとっては苦難の時代でもあり、感染症の拡大という負の側面も併せ持った複雑な時代でした。モンゴル帝国の興亡は、ユーラシア大陸の歴史に大きな影響を与え、現代世界に通じる様々な要素を生み出したと言えるでしょう。

関連事項：タタール、超大国、世界の一体化、世界史

もう一度検索