パスカリス2世 (ローマ教皇)

パスカリス2世（1099-1118年）は、11世紀末から12世紀初頭にかけてローマ教皇の座に就いた人物です。彼の教皇在位期間は、教会と世俗権力との間の緊張関係、特に聖職叙任権をめぐる闘争によって特徴づけられました。

まず、彼の治世初期の出来事として、サンタ・マリア・デル・ポポロ教会の建設があります。伝説によれば、この教会が建てられた場所は、かつてローマ皇帝ネロの霊廟があったとされ、そこに生えていたクルミの木には悪魔が宿っていると恐れられていました。パスカリス2世は聖母マリアの啓示を受け、このクルミの木を切り倒し、ネロの遺体を焼いてテヴェレ川に流しました。これによって悪魔は消え去り、感謝の意を込めて教会が建設されたと伝えられています。この逸話は、パスカリス2世の信仰心の深さと、ローマ教皇としての権威を象徴する出来事として後世に語り継がれています。

さらに、パスカリス2世は、聖職叙任権をめぐるイングランド国王ヘンリー1世との対立にも直面しました。ヘンリー1世は聖職叙任権を認めさせようとしたものの、パスカリス2世はこれを断固として拒否しました。この聖職叙任権をめぐる争いは、中世ヨーロッパにおける教会と世俗権力の関係を決定づける重要な問題でした。

聖職叙任権闘争は、神聖ローマ皇帝ハインリヒ5世との間でも展開されました。ハインリヒ5世は1110年、ローマに遠征を行い、聖職叙任権問題の解決を図ろうとしました。1111年、両者は合意に達し、皇帝は教会の叙任権を完全に放棄し、教会は世俗的な土地や財産を返還することになりました。この合意は、教会と世俗権力の関係における重要な転換点となり、ヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。しかし、この合意は一時的なものであり、その後も聖職叙任権をめぐる争いは継続しました。

パスカリス2世の教皇在位中には、第1回十字軍後の1113年、プロヴァンスのジェラール・ド・マルティギューに対して、騎士修道会としての正式な承認を与えたという重要な出来事もあります。これが、中世ヨーロッパの三大騎士修道会の一つとして知られる聖ヨハネ騎士団です。聖ヨハネ騎士団は、その後の十字軍やヨーロッパ社会に多大な影響を与え、パスカリス2世の決断は、ヨーロッパの歴史の大きな流れに影響を与えたと言えるでしょう。

パスカリス2世の教皇在位は、教会と世俗権力の関係、そして宗教と政治の複雑な絡み合いの中で、常に難しい決断を迫られるものでした。彼は聖職叙任権闘争をはじめとする様々な困難に直面しながらも、教会の独立性を守り、その発展に貢献しました。サンタ・マリア・デル・ポポロ教会の建設や聖ヨハネ騎士団の承認といった彼の功績は、今日でも人々に記憶されています。彼の教皇在位は、中世ヨーロッパ史における重要な一章として、今も研究者によって詳細に分析されています。

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