パッシェンデールの戦い

パッシェンデールの戦い：泥濘の戦場と数多の犠牲

パッシェンデールの戦い（1917年 7月末～11月）は、第一次世界大戦における西部戦線の主要な戦闘の一つです。連合国軍（イギリス、ANZAC、カナダ、南アフリカ）は、ベルギーのイーペル近郊にあるパッシェンデールを制圧し、ドイツ軍の戦線を突破、ベルギー海岸線を奪取してUボートの活動拠点を占拠することを目的としました。

戦いの背景と戦略

連合国軍は、この突破作戦が成功すれば、戦線の要となる地点に決定的な通路が開け、フランス軍への圧迫を軽減できると期待していました。しかし、戦場となった地域は元々沼沢地であり、雨が降らずともぬかるんでいました。イギリス軍の大規模な準備砲撃が地表を破壊し、その後の大雨も相まって、戦車すら通行不能な底なし沼が戦場全体に広がり、多くの兵士が溺死するという悲劇を生みました。一方、ドイツ軍は、堅固に整備された塹壕と、相互に連携したトーチカ群によって防御を固めていました。

メシヌ高地での前哨戦

連合国軍はまず、戦略要地であるメシヌ高地の確保を目指しました。1917年 6月7日、第二軍は、独軍陣地の地下に掘ったトンネルに大量の爆薬を仕掛け爆破しました。これにより、独軍の守備隊を壊滅させ、メシヌ高地を制圧しました。

泥沼の戦い

メシヌ高地奪取後、連合国軍はイーペルを見下ろすゲルベルト台地の制圧を目指し、大規模な砲撃を開始しましたが、逆にドイツ軍に攻勢を察知させ、兵力を増強させる結果となりました。7月27日には、イーゼル運河を突破しましたが、主攻勢を開始した直後には、連合軍は1日で32,000人の死傷者・行方不明者を出すなど、多大な損害を被りました。その後の8月、ゲルベルト台地への攻勢はことごとく失敗に終わりました。

戦場は、砲撃によって排水路が破壊され、大雨と重なって、泥濘と砲弾孔で覆い尽くされました。兵士たちは、重装備を背負いながら、泥に足を取られ、砲弾孔に落ちて溺死する危険と常に隣り合わせでした。また、埋葬された戦死者の遺体が、雨や砲撃で掘り返され、地表に露出するという凄惨な状況でした。

「噛んで維持する」戦略

9月からの作戦では、小規模な前進を繰り返し、反撃を撃退することで戦果を積み重ねる「噛んで維持する」という新戦略が採用されました。連合国軍は、戦域に1,295門もの砲を集中させましたが、独軍の抵抗も激しく、9月10日のメニン街道の戦いでは、21,000人の損害を出しました。独軍は、深く掘られた待避壕とコンクリート製のトーチカ群を備えた、半永久的な陣地帯を構築していました。ポリゴンの森やブローツァインデでの戦闘でも、連合国軍は多大な犠牲を払いながらも、戦線をパッシェンデール付近まで進めました。

第一次パッシェンデール戦

10月12日、連合国軍は、ランゲマルク＝プールカペレ付近で再攻勢を開始しましたが、大雨で砲を前進させることができず、独軍の前に撃退されました。連合軍の損害は13,000人に及んだ一方で戦果は限定的でした。この時点で、連合軍の損害は100,000人に達していましたが、戦略的な突破は未達成でした。

第二次パッシェンデール戦とカナダ軍の投入

戦況を打開するため、ANZAC軍に代わり、カナダ軍団が投入されました。10月26日、カナダ軍はパッシェンデールへの攻撃を開始しましたが、12,000人の損害を被りました。その後、増援を得て、10月30日に町を奪取しました。11月6日には、カナダ軍の兵員の8割が失われる中、交代部隊が到着し、攻撃を継続、最終的にパッシェンデールを確保しました。

戦いの余波

パッシェンデールの戦いは、第一次世界大戦における大規模戦闘の残虐さを象徴しています。ドイツ軍は約27万人、連合国軍は約30万人の死傷者を出しました。特に、カナダ軍は16,000人もの犠牲者を出し、その大半は最後の攻撃で失われました。戦場では、90,000人の遺体が身元を特定できず、42,000人の遺体が発見されませんでした。空撮写真の分析では、1平方マイルあたり約100万個もの砲弾孔が確認されました。

パッシェンデールの戦いは、戦車の集中投入によって突破が成功したカンブレーの戦いでの予備兵力不足の原因となりました。イギリス政府は人的損害の補充を渋り、結果として、イギリス軍はドイツ軍の攻撃に対して脆弱となりました。1918年3月のドイツ軍の大攻勢により、連合国軍はパッシェンデールで獲得した土地をほぼ全て失い、多くの歴史家が指摘するように「戦略的に重要な地域ではなかった」ことが証明されました。この戦いを経て、イーペルのメネンポールト記念碑やタイン・コット墓地は、多くの戦没者を追悼する場となっています。

パッシェンデールの戦いは、その惨状から、初期の近代戦争の残虐性を象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

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