パット・ベンディット

パトリック・ベンディット：両腕の魔術師

パトリック・マイケル・ベンディット。この名前を聞けば、多くの野球ファンは「スイッチピッチャー」という言葉を思い浮かべるだろう。1985年生まれの彼は、メジャーリーグにおいてグレッグ・ハリス以来となる、左右両腕で投球可能な希有な投手として知られている。ネブラスカ州オマハ出身の彼は、3歳の頃から父親の指導の下、両手両足を平等に使う訓練を積んだ。その類まれな才能は、クレイトン大学時代にも開花し、ミズノ特製の6本指グラブを駆使して両手投げ投手として活躍。大学リーグで優勝を経験するなど、輝かしい実績を残した。

プロへの道：ヤンキース傘下時代

2008年、ニューヨーク・ヤンキースからドラフト指名を受けプロ入り。傘下マイナーリーグで卓越した成績を残し、着実にキャリアを積んでいった。ヤンキース傘下時代には、クローザーとして活躍した時期や、中継ぎとして豊富な登板経験を積んだ時期、右肩関節唇損傷で苦しんだ時期など、様々な経験を重ねていく。2013年には、第3回ワールド・ベースボール・クラシックのイタリア代表に選出され、国際舞台でもその実力を示した。

メジャーリーグデビューと「パット・ベンディット・ルール」

2015年、オークランド・アスレチックスとメジャー契約を結び、ついにメジャーリーグの舞台に立つ。ボストン・レッドソックス戦でメジャー初登板を果たすと、その独特の投球スタイルは大きな話題を呼んだ。特に記憶に残る出来事の一つが、スイッチヒッターのブレイク・スワイハートとの対戦だ。この対戦では、メジャーリーグで初めて「パット・ベンディット・ルール」が適用された。このルールは、スイッチピッチャーとスイッチヒッターの対戦における打席と投球腕の選択順序に関するもので、ベンディット自身の経験に基づいて制定されたものである。このルール制定の背景には、投手と打者のどちらが先に打席または投球腕を選択するかという、リーグに明確なルールが存在しなかったという問題があった。彼のデビュー戦で発生した、スイッチピッチャー対スイッチヒッターという異例の対決によって、この問題点が露呈し、ルール改定へと繋がったのだ。

様々な球団を渡り歩き

アスレチックス時代以降も、ベンディットはトロント・ブルージェイズ、シアトル・マリナーズ、フィラデルフィア・フィリーズ、ロサンゼルス・ドジャース、サンフランシスコ・ジャイアンツ、そしてマイアミ・マーリンズと、多くの球団を渡り歩いた。メジャーリーグではリリーフとして活躍し、その稀有な才能で多くのファンを魅了し続けた。しかし、メジャーでの活躍は長くは続かず、マイナーリーグでのプレーや所属球団の変更を繰り返すこととなった。

選手としての特徴：左右両腕の使い分け

ベンディットの最大の特徴は、左右両腕で投球できることだ。右腕では縦に大きく割れるカーブ、左腕ではスライダーを武器にしていた。かつては、右腕でオーバースロー、左腕でサイドスローと投球フォームも異なっていたが、右肩の故障などを経験した後は、左右両腕ともサイドスローに近いフォームに変化している。彼は国際FAXで注文した6本指グラブを使用し、投げる腕に合わせて左右どちらの手にも装着できるよう工夫を凝らしていた。試合中の投球練習でも、左右両腕を使い分け、準備を行っていた。

引退とその後

2021年、出身校であるクレイトン大学のスポーツ殿堂表彰を受けた際に、既に引退していることが明らかになった。メジャーリーグでの華々しい活躍とは裏腹に、マイナーリーグでのプレーや球団を渡り歩く日々の中で、引退を決断したのだろう。しかし、彼の両腕から繰り出される魔法のような投球は、野球史に永遠に刻み込まれた。彼のメジャーリーグでの活躍は短かったが、彼の存在は、野球界に大きな影響を与え、新たなルール制定にも繋がるという、大きな功績を残した。

もう一度検索