パツリン

パツリン：果物に潜むカビ毒とその危険性

パツリンは、アオカビの一種であるペニシリウム属やコウジカビの一種であるアスペルギウス属などのカビが産生するマイコトキシン（カビ毒）です。特にリンゴ、ブドウ、モモなどの腐敗した果物から検出されやすく、リンゴ製品におけるパツリンの含有量は、食品の安全性を確保するための重要な指標となっています。

パツリンの性質と検出

パツリンは、独特の化学構造を持つ有機化合物です。紫外線吸収の特性があるため、この性質を利用した分析方法で検出が可能です。具体的には、276nmの波長における紫外線吸収を測定することで、パツリンの存在と量を定量的に評価できます。

パツリンの毒性と健康への影響

パツリンは、他のマイコトキシンと比較すると毒性はそれほど強くありませんが、細胞膜の透過性を阻害する作用を持ちます。動物実験の結果からは、臓器出血や遺伝毒性、さらには発癌性さえ示唆する報告があります。急性毒性では、消化管の充血、出血、潰瘍などが確認されています。また、慢性的な摂取では、体重増加の抑制や腎機能障害を引き起こす可能性も指摘されています。マウスを用いた経口摂取試験では、致死量（LD50）は17mg/kgと報告されています。

パツリンの産生と影響因子

パツリンの産生量は、果物の種類や品種によって異なります。例えば、リンゴでは「ジョナゴールド」品種の方が「ふじ」品種よりもパツリンの産生が多いという報告があります。また、リンゴ果実中のポリフェノールやリンゴ酸の量が多いほどパツリンの産生は抑制される傾向があり、一方で、酪酸メチルなどのエチルエステル化合物はパツリン産生を促進する可能性が示唆されています。これらの知見は、パツリン汚染の予防や低減のための対策を検討する上で重要な情報となります。

パツリンの分解と対策

パツリンは、アルコール発酵によって分解されます。また、アスコルビン酸（ビタミンC）も、特定の条件下ではパツリンを消失させる効果があります。そのため、柑橘類ではパツリン汚染のリスクは低いとされています。高温処理（150℃）でも一定量の減少が見られますが、効果は限定的です。亜硫酸塩の添加や活性炭処理も、パツリンの量を減らす有効な手段として知られています。

パツリンの代謝と排出

パツリンは、摂取後、赤血球や肝臓、肺、脾臓、腎臓などに分布しますが、ほぼ24時間以内に体外へ排出されると考えられています。

パツリンに関する規制と基準

パツリンの安全性確保のため、多くの国でリンゴ製品に対する規制が設けられています。世界保健機関（WHO）は、リンゴジュース中のパツリンの最大許容濃度を50µg/Lと推奨しています。日本においても、食品衛生法に基づき、パツリンの基準値が設定されています。

日本におけるパツリン汚染の実態と中毒事例

日本国内では、市販のリンゴジュースを対象とした調査が行われています。その結果、ストレート果汁ではパツリンが検出されない一方で、濃縮還元果汁では基準値以下の微量のパツリンが検出されるケースが報告されています。過去には、パツリンに汚染された飼料が原因とされる乳牛の中毒事例も発生しています。

まとめ

パツリンは、果物に潜むカビ毒であり、健康への影響が懸念される物質です。食品の安全性を確保するため、パツリンの産生機構の解明や、効果的な対策の開発が重要です。リンゴ製品においては、特にパツリン汚染の防止と基準値の遵守が求められます。今後の研究によって、より安全な食品生産と消費を目指していくことが重要です。

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