パトリシア・ハイスミス

パトリシア・ハイスミスの生涯と業績

パトリシア・ハイスミス（Patricia Highsmith）は、1921年1月19日にテキサス州フォートワースに生を受けました。彼女は養子として育ち、ニューヨーク市で成長を遂げました。ハイスミスは学生時代にドストエフスキーやポーなど、多くの著名な作家の作品を愛読し、自らの文学活動の基盤を築いていきました。彼女の創作は、バーナード・カレッジ在学中に始まり、若い頃から短篇小説の執筆に取り組みました。

彼女の作家としての最初の重要な一歩は、短篇小説「ヒロイン」を『ハーパース・バザー』に掲載したことでした。その後、コミックブックの脚本や編集を行いながら、執筆活動を続けます。24歳の時には、長篇小説の企画「The Click of the Shutting」を書きましたが、誕生日に破棄してしまいました。この頃から、彼女は自らの性的指向を確認し、レズビアンまたは両性愛者であることを公言していました。

作家デビュー作『見知らぬ乗客』は、彼女が百貨店で働いていた際に偶然出会った女性にインスパイアされて誕生しました。この作品は、人妻と女性店員との禁断の恋を描き、大きな反響を呼びましたが、当初はクレア・モーガンという名義で発表されました。その後、この書籍は大ヒットし、特に同性愛者の読者に支持を受けました。

さらに、ハイスミスは『太陽がいっぱい』という作品を発表し、この本もまたヒッチコックによって映画化されることで人気を博しました。主人公のトム・リプリーはその後、続編が生まれるほどのキャラクターになり、ハイスミスの代表作として評価されています。

1950年代からはヨーロッパに移住し、アメリカを舞台にした作品を書く際には、現地の友人たちから風俗についての情報を収集していました。そして1982年にはスイスへ移り住み、1995年に肺がんで亡くなるまでそこで暮らしました。

作品の特徴と評価

ハイスミスの作品は主にサスペンスやミステリーのジャンルで知られていますが、彼女自身はその評価に対して複雑な思いを抱いていたと言います。彼女の作品は、通常の英雄的な主人公や予測可能なストーリー展開とは一線を画し、不合理な展開や不安感を醸し出すことが特徴です。グレアム・グリーンが指摘したように、彼女の作品にはしばしばブラックユーモアや諷刺が織り込まれており、多岐にわたる読者に受け入れられています。

彼女の趣味はカタツムリの観察であり、いくつかの作品にこの題材が取り上げられています。日本では映画『太陽がいっぱい』の原作者として広く知られていますが、彼女の著作が日本に紹介されるまでには時間がかかりました。1980年代以前の日本においては、彼女の作品は短期間で絶版になってしまうことが多かったのです。

1990年代後半になるとハイスミスの作品への関心が高まり、河出文庫や扶桑社から多くの作品が刊行され、ようやく彼女の全体像が理解され始めました。

主な受賞歴と著作

ハイスミスは、数々の賞を受賞しています。1955年には『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞を受賞し、1964年には『殺意の迷宮』で英国推理作家協会賞の外国作品賞を受賞しました。また、1993年にはフィンランド・ミステリ協会から生涯の功績に対して外国推理作家賞が授与されました。

主な作品には以下があります：

• - 『見知らぬ乗客』(1950)
• - 『太陽がいっぱい』(1955)
• - 『贋作』(1970)
• - 『アメリカの友人』(1974)
• - 『水の墓碑銘』(1957)

ハイスミスの影響は計り知れず、多くの作品が映画化されています。彼女の作品は今もなお、多くの読者に影響を与え続けています。2021年には彼女の日記が公開され、それをもとにした映画も制作されました。ハイスミスの遺した文学は、時代を超えた普遍的なテーマとメッセージを持っており、多くの人々に刺激を与える存在として残り続けることでしょう。

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