パノラマ島奇談

『パノラマ島奇談』

江戸川乱歩が創り出した中編小説『パノラマ島奇談』は、1926年から1927年にかけて『新青年』に連載されました。この作品は、売れない作家の人見廣介が主人公として登場し、彼の理想の世界を追求する姿を描いています。

作品の概要

本作は、5回にわたって連載され、初めは『パノラマ島奇譚』というタイトルで発表されました。後に単行本として収録される際に『パノラマ島奇談』に改題されました。作品中では「奇譚」や「奇談」といった表記が混在していることも特徴の一つです。乱歩が持っていた創作の背景には、エドガー・アラン・ポーの影響があったとされていますが、連載当初は読者からあまり好評を得られなかったようです。それでも、萩原朔太郎などから評価されるようになり、後世に残る名作として認知されています。

あらすじ

物語の中心人物は、人見廣介という貧しい作家です。普段は理想郷を夢見ながら、現実の厳しさに苦しむ彼は、ある日、彼にそっくりな富豪・菰田源三郎が病死したとの噂を耳にします。二人は昔の大学時代の友人で、周囲には双子のようだと揶揄されていました。

菰田はてんかんを患っており、 死亡診断を受けた後でも息を吹き返す可能性があることが人見の耳に入ると、人見は大胆な計画を思いつきます。それは、菰田を装って、その財産を手に入れ、彼が夢見る楽園を築くことです。

人見は自らの自殺を偽装し、菰田の家族がいるM県へ向かいます。そこで彼は墓を暴き、菰田の遺体を隣の墓に埋め直し、まるで菰田が蘇り、彼自身が菰田だと名乗ります。こうして見事に菰田家に巧妙に入り込むことに成功し、財産を基に理想的な場所・沖の島の開発を始めます。

しかし、菰田の妻・千代子は、夫が復活した後の様子に疑念を持つようになります。彼女は夫の変わり様に当惑しつつも、何かしらの愛情を抱いています。人見は千代子を理想郷・パノラマ島に誘おうとしますが、彼女の運命はどうなるのでしょうか。

登場人物

• - 人見廣介: 主人公であり、理想の世界を追い求める売れない作家。
• - 菰田源三郎: 廣介の旧友であり、大富豪。彼の死が物語の発端となる。
• - 千代子: 菰田の妻で、夫の変貌に戸惑い、思慕の念を抱く。
• - 北見小五郎: 文学者であり、菰田の妹の依頼でパノラマ島に侵入する役割を担う。

舞台設定

作中ではM県S郡という名前が出てきますが、イメージされているのは三重県の鳥羽周辺です。乱歩自身が鳥羽で働いていた経験が影響を与えていると考えられています。本作は、彼の想像力が形になった作品であり、登場人物や舞台設定にも多くの興味深い要素が含まれています。

メディア展開

『パノラマ島奇談』は文芸作品としてだけではなく、1971年にはマンガ化され、2008年には再びマンガ化されています。また、1982年にはテレビドラマとしても放送され、様々な形でその魅力が共有されています。

まとめ

乱歩の『パノラマ島奇談』は、独特の構成と深い心理描写が随所に見られる作品で、夢と現実が交差する緻密な物語を体験することができます。登場人物たちの微妙な人間関係と彼らが抱える問題は、時代を超えても読み手に深い印象を与えるものです。

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