パミラ、あるいは淑徳の報い

パミラ、あるいは淑徳の報い：18世紀イギリスを席巻した書簡体小説

サミュエル・リチャードソンが1740年に発表した『パミラ、あるいは淑徳の報い』(Pamela; or, Virtue Rewarded)は、イギリス文学史において「最初の近代小説」と称されることもある、画期的な作品です。副題にもなっている「美徳は報われる」という言葉が示す通り、本作は、貞節な女性が試練を乗り越え、最終的に幸福を掴む物語を描いています。

物語の中心人物は、美しい召使の少女パミラ・アンドリューズです。彼女は、仕えていた老婦人の死後、その息子である若主人のもとで奉仕を続けることになります。しかし、若主人はパミラに下心を抱き、彼女を城の一室に閉じ込め、様々な嫌がらせを行います。

パミラは、この苦境の中でも両親への手紙、そして後に日記という形で自身の体験を記録していきます。この書簡体、そして日記という形式が、小説にリアリティと深みを与え、読者をパミラの感情に深く引き込みます。彼女は若主人の誘惑を断固として拒否し、貞操を守り続けます。

パミラの揺るぎない貞節は、やがて若主人の心を動かし、彼は彼女に正式な結婚を申し込むに至ります。物語はこれで終わりではなく、身分違いの結婚による周囲からの冷ややかな視線や、夫の浮気疑惑など、パミラは結婚後も様々な困難に直面します。しかし、彼女はそれらの試練にも耐え忍び、毅然とした態度を崩しません。

最終的に、パミラの揺るぎない美徳は周囲の人々、そして夫の心をも打ち、彼女のお屋敷の奥方としての地位は不動のものとなります。この物語は、現代の読者から見ると少し理想化されすぎているように見えるかもしれませんが、18世紀の読者には大きな衝撃を与え、パミラ関連グッズが作られるほどの人気作品となりました。

女性の読者にとっては、一人の若い女性の繊細な心理描写が、パミラの運命の浮き沈みとともに巧みに描かれている点に新鮮さを感じたことでしょう。また、親の立場からすれば、子供たちの扱いの難しさに共感したことでしょう。さらに男性や貴族階級の読者にとっても、召使という地位の人間にも、心や感情があることを改めて認識させられる、衝撃的な作品であったと考えられます。

『パミラ』は、ロンドンの読書界に大きな影響を与え、多くの模倣作品や批判作品を生み出しました。中でも、ヘンリー・フィールディングによるパロディ『シャミラ・アンドリューズ』は有名です。

『パミラ』は、美徳が社会的地位よりも価値があると主張する中産階級から圧倒的な支持を得ました。この物語は、中産階級のピューリタン的な倫理観、すなわち貞節な女性の成功物語を描き、それまでの貴族的な恋愛物語の様式を大きく変えることとなりました。

今日、『パミラ』は、女性の自立、美徳の大切さ、そして社会における階層の壁といった、時代を超えたテーマを扱った、重要な文学作品として高く評価されています。その影響は、後のイギリス小説、特に女性を主人公とする作品に多大なる影響を与え、現代においてもその文学的な価値は色褪せていません。

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