パリ・オープニング

パリ・オープニング (Paris Opening)

「パリ・オープニング」は、チェスにおける特定のオープニングの一つで、白の初手1. Nh3によって定義されます。このオープニングは、「アマール・オープニング (Amar Opening)」としても知られています。ナイトを盤の端に展開するという、チェスの一般的なセオリーから大きく外れた初手であるため、見た目には奇妙な印象を与えます。

これは、相手の反応を利用して局面に混乱をもたらし、優位を築くことを目的とした「ハメ手」の一種と見なされています。日本のチェスプレーヤー、東公平氏は、このセオリーを無視したような初手に対して、相手がこれを軽視したり、あるいは腹を立てて感情的な対応をしたりすると、かえって白の仕掛けた術中に陥りやすくなると指摘しています。つまり、このオープニングの有効性は、相手の心理や油断に大きく依存する側面があると言えるでしょう。

以下に、パリ・オープニングにおける代表的な変化の一つを紹介します。この変化では、白が巧妙な罠を仕掛けて主導権を握る展開が見られます。

1. Nh3 d5
2. g3 e5
3. f4 Bxh3
4. Bxh3 ef
5. 0-0 fg
6. hg Bd6
7. e4! Qg5
8. Qf3! Qxg3+
9. Qxg3 Bxg3
10. Bc8! Nd7
11. Bxb7 Rb8
12. Bxd5

この変化は、最終的に白がやや優勢な局面を迎えることが示されています。白の指し手にはいくつかのポイントがあります。

特に注目すべきは、5手目です。もし白がポーンを取る5. gfを選んでしまうと、黒は5. ... Qh4+とチェックをかけ、次に白のビショップをタダで手に入れることができ、黒が有利になります。白は敢えてポーンを取らずに5. 0-0とキャスリングすることで、キング側のポーン構造が乱れているにも関わらず、相手に攻撃の機会があると思わせ、逆にその攻撃を誘い込む狙いがあります。これはリスクを伴いますが、相手の対応を誤らせるための巧妙な一手です。

続く局面で、黒が6. ... Bd6として白のポーンを取りに来ても、白はそれに構わず7. e4!と指します。この手はクイーンの diagonal (h4-d8) を開く非常に良い手で、その後の攻撃の布石となります。もし黒が7. ... Bxg3とビショップでポーンを取ると、白は8. Qf3と指し、9. Qxf7#によるチェックメイトと、9. Qxg3としてg3のビショップをタダで取るという二つの脅威を同時に作り出します。黒はチェックメイトを防ぐ手を指すしかなくなり、結果として白は容易にビショップを手に入れることができます。

また、黒がより正確に7. ... Qg5と対応した場合でも、白の8. Qf3!という手は、かなりの棋力を持つプレーヤーであってもその意図を見抜きにくい、効果的なハメ手として機能します。この一連の変化は、パリ・オープニングが単なる奇妙な手ではなく、特定のラインにおいては相手を罠にかける potent な武器となりうることを示しています。

このオープニングに関する記述は、東公平氏の著作『ヒガシコウヘイのチェス入門 定跡編』（河出書房新社）において言及されています。その特異な性質から、実戦で採用されることは少ないかもしれませんが、相手の不意を突く奇襲として、あるいはその研究を通してチェスの奥深さを知る上で興味深いオープニングと言えるでしょう。

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