パリ改造

パリ改造：近代都市計画の光と影

19世紀のパリは、人口増加による過密状態、劣悪な衛生環境、そして複雑に入り組んだ路地が問題となっていました。暗く、風通しの悪い街並みは、コレラなどの伝染病の蔓延を招き、多くの犠牲者を出していました。こうした状況を打開するため、ナポレオン3世の治世下、セーヌ県知事を務めたジョルジュ・オスマン男爵によって、大規模な都市改造事業が1853年から17年にわたって実施されました。これは「オスマン化（Haussmannisation）」とも呼ばれ、近代都市計画に多大な影響を与えた重要な事業です。

オスマンによる都市改造計画

オスマンは、パリの衛生状態改善と街並みの刷新を目標に、以下の3原則に基づいて都市改造計画を立案しました。

1. 古い街路の拡幅と直線化: 中世以来の入り組んだ路地を整理し、広い大通りを建設することで、交通の円滑化と風通しの改善を図りました。
2. 幹線道路の複線化: 主要道路の拡幅と複線化によって、交通渋滞の解消と交通効率の向上を目指しました。
3. 重要拠点の斜交路による接合: 主要な地点を結ぶ斜交路を整備することで、都市全体の交通ネットワークを強化しました。

この計画に基づき、エトワール凱旋門から放射状に広がる12本のブールヴァール（大通り）が建設されました。これらは、アヴェニューと呼ばれる並木道として整備され、パリの象徴的な景観を形成しています。また、セーヌ川に沿って平行または垂直に走る道路や、同心円状のバイパス道路を建設することで、効率的な交通網が構築されました。

都市景観へのこだわり

オスマンは都市景観にも強いこだわりを持っており、その象徴がシュリー橋です。ナポレオン3世がセーヌ川に垂直に架ける橋を計画したのに対し、オスマンは斜めに架ける橋が景観にそぐわないと考え、サン・ジェルマン通りとアンリ4世通りの延長上に橋を架けることで、バステイーユ広場の7月の塔とパンテオンのドームを一直線上に配置する計画を提案しました。この計画により、パリの都市景観に統一感が生まれました。さらに、計画道路沿いの建物の色や形を統一することで、景観の調和を図りました。

スクラップ・アンド・ビルドと超過収用

オスマンは、計画地にあった建物を強制的に取り壊し、新たな街区を建設する「スクラップ・アンド・ビルド」の手法を採用しました。この手法は、当時としては画期的なものでしたが、多くの住民の立ち退きを余儀なくさせ、批判の対象にもなりました。また、道路建設に必要な土地の収用だけでなく、道路沿いの土地も収用する「超過収用」という手法を用いました。これは、道路整備によって上昇した沿道の地価から得られる利益を事業資金に充てることを目的としていました。

パリ改造の影響

パリ改造は、パリの衛生環境の大幅な改善、交通網の整備、そして近代的な都市景観の創造に貢献しました。「世界の首都」と呼ばれるようになったパリは、世界各国の都市計画のモデルとなりました。しかし、一方で、中世以来の複雑な路地裏が失われたことや、住民のコミュニティが破壊されたこと、都市防衛力の低下なども指摘されています。

評価と批判

パリ改造は近代都市計画の成功例として高く評価されていますが、批判的な意見も存在します。スイスの建築史家ジークフリート・ギーディオンは、その著書『空間・時間・建築』の中で、画一的な大通りの裏側に残された乱雑さを批判しました。また、普仏戦争におけるパリの敗北も、改造によって都市防衛力が低下したことが一因であるとの指摘があります。さらに、多くの歴史的な街並みが失われたことは、歴史的遺産の喪失という大きな損失をもたらしました。

まとめ

パリ改造は、近代都市計画における重要な事例であり、その功績と批判を両面から理解することが重要です。オスマンによる大胆な都市改造は、パリの都市機能を飛躍的に向上させた一方で、歴史的景観やコミュニティの破壊という犠牲を伴いました。この事業は、近代都市計画が抱える課題と、その複雑な影響を示す重要な事例として、現在でも研究・議論が続けられています。

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