パリ猫ディノの夜

映画『パリ猫ディノの夜』解説

『パリ猫ディノの夜』（原題: Une vie de chat、英題: A Cat in Paris）は、2010年にフランスで製作されたサスペンス・アニメーション映画です。昼と夜で全く異なる顔を持つ一匹の猫を主人公に、彼とその周囲の人々が巻き込まれるスリリングな事件と冒険を描き出し、第84回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされるなど、国内外で高い評価を受けました。

物語の概要

物語の舞台は華の都パリ。主人公の黒猫ディノは、昼間は言葉を話せない少女ゾエの優しい飼い猫として、穏やかな日々を過ごしています。口数の少ないゾエにとって、ディノは大切な心の支えでした。しかし、日が暮れて夜になると、ディノはもう一つの顔を見せます。それは、凄腕の泥棒であるニコの忠実な相棒として、パリの街を屋根伝いに駆け巡り、大胆な盗みを働く姿です。ディノは、昼はゾエの心を癒す存在、夜はニコの仕事を助ける頼れる存在として、二つの全く異なる世界を行き来していました。

そんなある夜、ディノはニコから預かった大切な宝石を、誤ってゾエの部屋に持ち帰ってしまいます。この偶然が、ゾエがディノの隠された秘密に気づくきっかけとなります。自分の愛猫が夜中にこっそり家を抜け出し、何か秘密の活動をしているらしいと感じ取ったゾエは、好奇心と不安に駆られ、真夜中のパリへとディノのあとを追います。

一方、ゾエの母親であるジャンヌは、警察の刑事として活躍しており、過去に夫を殺害したギャングのボス、ヴィクトール・コスタを追っていました。コスタは、ディノが持ち帰った宝石とも深い関わりがあり、ゾエがディノを追うことで、期せずしてギャングの犯罪組織が関わる危険な事件に巻き込まれていくことになります。ゾエ、ディノ、ニコ、そしてジャンヌ刑事やギャングたちが、パリの街で複雑に絡み合いながら、予測不能なサスペンスと危険な冒険が展開されていきます。

スタッフ・キャスト

本作の監督と脚本は、アラン・ガニョルとジャン＝ルー・フェリシオリの二人が共同で手掛けました。製作総指揮をエマニュエル・ベルナールが、製作をジャック＝レミー・ジレールが担当しています。音楽はセルジュ・ベセが手掛け、物語の雰囲気を見事に盛り上げています。編集はエルヴェ・ギシャールです。

声の出演には、泥棒ニコ役にブルノ・サロモネ、秘密を追う少女ゾエ役にOriane Zani、ゾエの母親で刑事のジャンヌ役にドミニク・ブラン、ゾエの乳母クロディーヌ役にベルナデット・ラフォン、ジャンヌの部下リュカ役にベルナール・ブイヨン、そしてギャングのボスであるヴィクトール・コスタ役にジャン・ベンギーギなどが名を連ねています。個性豊かなキャラクターたちが、声優たちの演技によって生き生きと描かれています。

公開と反響

『パリ猫ディノの夜』は、本国フランスでは2010年12月15日に171館で劇場公開され、初登場12位を記録しました。その後、2011年2月13日には第61回ベルリン国際映画祭のジェネレーション部門でも上映され、国際的な注目を集めました。

日本では、当初『パリ猫の生き方』という題名で、2011年6月26日のフランス映画祭2011や2012年6月の横浜フランスアニメーション映画祭2012で上映されました。その後の劇場公開にあたり、『パリ猫ディノの夜』に正式な邦題が決定し、2013年7月13日に劇場公開されました。

アニメーションとテーマ

本作の大きな特徴の一つは、手描きを基調とした独特なアニメーションスタイルです。温かみのある線と色彩で描かれた映像は、特に夜のパリの描写において、光と影のコントラストが美しく、どこかノスタルジックで雰囲気のある街並みを作り出しています。キャラクターデザインも個性的で、特に主人公の猫ディノは、セリフを持たないながらも豊かな表情や動きで感情を巧みに表現します。

物語は、愛する者への献身、喪失からの立ち直り、そして正義と悪の対立といった普遍的なテーマを含んでいます。ゾエは言葉を失った悲しみから立ち直ろうとし、母親のジャンヌは夫を奪った犯人を執拗に追い、ディノは二つの世界でそれぞれのパートナーに静かに寄り添います。一見子供向けに見えるかもしれませんが、人間関係の複雑さや、危険な社会の側面も描かれており、大人も十分に楽しめる深みを持っています。猫の視点を通して、パリの街の光と影、そしてそこに生きる人々の姿が描かれている点も興味深いと言えるでしょう。本作は、その手描き風の温かみのあるアニメーションスタイルと、子供から大人まで楽しめるサスペンスフルなストーリーが高い評価を受け、第84回アカデミー賞の長編アニメ映画賞にノミネートされた秀作です。

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