パルウ古細菌

パルウ古細菌（Parvarchaeota）

パルウ古細菌は、2013年に学術的に提唱された古細菌の一群であり、門（Phylum）という分類階級に位置づけられています。この古細菌群は、2006年に初めてその存在が明らかになった「ARMAN」（Archaeal Richmond Mine Acidophilic Nanoorganisms）と呼ばれる微生物群集の一部を成しており、ミクル古細菌（Microarchaeota）などと共に発見されました。

名称の由来

その名称は、最初にこの系統を代表するものとして提案された学名「Ca. Parvarchaeum」に由来します。この学名は、ラテン語で「小さい」を意味する「Parvus」と、古細菌を示す接尾辞である「-archaeum」を組み合わせて作られており、後に明らかになる彼らの特徴、特にその小さなサイズを示唆しています。

発見と生息環境

パルウ古細菌の存在は、2006年にアメリカ合衆国・アイアンマウンテン鉱山（Iron Mountain Mine）の強酸性排水中から報告されたのが最初です。この環境はpHが非常に低い極限環境として知られています。興味深いことに、その後の研究では、強酸性環境だけでなく、pH8.1を示すアルカリ性の温泉水からもこの古細菌の遺伝情報が見つかっており、幅広い環境に適応している可能性が示されています。

形態と生態

特に、アイアンマウンテン鉱山で見つかったパルウ古細菌は、電子顕微鏡による観察から極めて小さな細胞サイズを持つことが推測されています。これは、彼らがARMANの中で「ナノオーガニズム」（超小型生物）と呼ばれる所以の一つです。さらに、別の古細菌であるテルモプラズマ目（Thermoplasmatales）の細胞に付着している様子も捉えられており、他の微生物との密接な相互作用、例えば寄生や共生といった生態を持つ可能性が示唆されています。

研究の現状

現在のところ、パルウ古細菌として正式に学名が記載された種は存在せず、また研究室での単離・培養も成功していません。そのため、主に環境中の遺伝情報、特にメタゲノム解析を通じてその性質が研究されています。

ゲノムの特徴

2010年にはメタゲノム解析という手法を用いて、この系統に含まれるとみられる2つの未記載種、Ca. Parvarchaeum acidiphilum および Ca. Parvarchaeum acidophilus の全ゲノム配列が解読されたことが報告されました。解読されたこれらのゲノムサイズは、およそ80万から100万塩基対と非常にコンパクトです。これは既知の古細菌ゲノムの中でも、Ca. Nanoarchaeum equitans（ナノ古細菌）に次ぐ小ささであり、パルウ古細菌の主要な特徴の一つとなっています。また、ゲノム内の遺伝子機能解析において、既知の古細菌に広く保存されている遺伝子群（COGs: Clusters of Orthologous Groups of proteins）との一致率が66%以下と、他の古細菌と比較して異常に低いことも特徴として挙げられます。

系統分類上の位置づけ

パルウ古細菌の系統的な位置づけについては、研究の初期段階で用いられた16S rRNA遺伝子配列に基づく解析では、ユーリ古細菌（Euryarchaeota）と呼ばれる別の大きなグループの内部に含まれるという結果が多く見られました。しかし、前述のゲノム情報を用いたより詳細な解析からは、ナノ古細菌に比較的近い系統関係を示すという報告がなされています。さらに、パルウ古細菌はナノ古細菌や他のいくつかの系統（Diapherotrites, Aenigmarchaeota, Nanohaloarchaeota）と共に、「DPANN」という名称で提唱されているスーパー系統群を形成するという説が現在有力視されています。DPANNは、その構成員がいずれも小型の細胞やゲノムサイズを持つという共通の特徴を持っており、これはパルウ古細菌の特性とも一致しています。

これらの研究は、培養が困難な微小な古細菌の多様性や生態、進化を探る上で重要な知見を提供しています。

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