パルナス製菓

パルナス製菓株式会社：近畿地方を彩ったロシア風菓子のパイオニア

1947年、神戸市で創業したパルナス製菓株式会社は、ロシア風菓子に特化した独自のスタイルで近畿地方を中心に事業を展開しました。創業者の古角松夫氏は、戦後の砂糖統制解除を機に、当時一般的だったドイツ菓子やフランス菓子とは異なる独自路線としてロシア風菓子に着目。ソ連から菓子の資料を取り寄せ、徹底的にロシアの菓子文化を研究しました。

その結果生まれたのは、ロシア風ケーキやシュークリーム「クレーモフ」、ピロシキ「パルピロ」といった、当時としては珍しい商品群でした。これらの商品は人気を博し、パルナス製菓は最盛期には500名を超える従業員を擁し、近畿地方に200店以上の直営店と特約店を展開するまでに成長しました。

古角氏のロシア菓子へのこだわりは、戦時中の体験に由来します。日本海軍に所属していた古角氏は、復員前にソ連船内でウォッカとレバー入りのピロシキを食べたことが、ロシア料理との最初の出会いだったと言われています。日ソ国交回復後の1957年には、自らソ連を訪問してモスクワのレストランや菓子工場を視察。帰国後には「モスクワの味」というキャッチコピーを掲げ、積極的にPRを行いました。

1970年には日本万国博覧会ソ連館のレストラン「レストラン・モスクワ」を受託運営するなど、事業は多角化。大阪、神戸、東京にも「レストラン・モスクワ」や「レストラン・パルナス」を開設しました。

しかし、洋菓子需要の減少や競争激化により、1990年代後半には事業縮小を余儀なくされ、1998年には工場を閉鎖。2000年には最後の直営店を閉店し、2002年に企業清算で解散しました。

パルナス製菓の遺産：CMソングとマスコットキャラクター

パルナス製菓は、独自のCMソングとマスコットキャラクターでも有名でした。1958年から「モスクワの味」というキャッチコピーとともに展開されたCMソングは、ロシア民謡調の軽快なメロディーで、近畿地方の人々には広く親しまれました。特に中村メイコとボニージャックスが歌った「パルナスの歌」は、テレビアニメのCMなどにも長年使用され、多くの人の記憶に残っています。

マスコットキャラクターの「パルちゃん」は、旧ソ連の児童文学『ネズナイカの冒険』の主人公をモデルとしており、親しみやすいデザインで人気を博しました。これらのCMやキャラクターは、パルナス製菓のブランドイメージを確立する上で大きな役割を果たしました。

ソ連菓子職人の技術指導

パルナス製菓は、旧ソ連最大の菓子メーカー、ボルシェビーク製菓工場のイェヴドキヤ・オージナ氏を招き、ケーキ製法の技術指導を受けました。オージナ氏は、国家重要行事などで歴代の指導者や国際賓客向けの記念ケーキ製造を指揮した、ソ連を代表する菓子職人でした。パルナス製菓では、オージナ氏を「パルナスママ」と呼び、その技術指導を記念してCMソングや社内記録映画も制作しました。オージナ氏との交流は、パルナス製菓の技術向上に大きく貢献したと同時に、日ソ交流の歴史においても貴重なエピソードとして残っています。

モンパルナス：伝統を受け継ぐ喫茶店・製パン店

パルナス製菓の創業者古角松夫氏の弟が1974年に創業した「モンパルナス」は、パルナス製菓から独立した喫茶店・製パン店です。パルナス製菓で培われた技術を継承し、現在もロシア風ピロシキ「パルピロ」を製造・販売しています。

2021年には、阪神尼崎駅構内から豊中市に移転。かつてパルナス製菓の本社があった豊中市への移転は、従業員の通勤の便や、長年の常連客への配慮からでした。新店舗では、ベーカリー部門を拡大し、ピロシキだけでなくハード系のパンやスイーツの販売も開始。パルナスグッズの販売や、パルナス復刻委員会とのコラボレーションなど、新たな試みにも挑戦しています。

パルナス製菓の足跡

パルナス製菓は、事業規模としては決して大きくはありませんでしたが、独自の菓子、CMソング、マスコットキャラクター、そしてロシアとのつながりなど、様々な点で人々の記憶に残る企業でした。その存在は、日本の洋菓子業界、そして日ソ交流の歴史においても、独特の足跡を残しています。現在でも、パルナス製菓の関連商品や情報を求める声は根強く、その人気は衰えることを知りません。

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