パレスチナ分割決議

パレスチナ分割決議（国際連合総会決議181号（II））は、当時のパレスチナ地域で激化していた問題を解決するために、1947年11月29日に国際連合総会で採択された重要な決議です。この決議は、イギリスによるパレスチナの委任統治を終結させ、その領域内にアラブ人国家とユダヤ人国家という二つの独立国家を樹立し、聖地エルサレムを国際管理下に置く特別地域（コーパス・セパラタム）とすることを勧告しました。

決議案は「経済同盟を伴う分割案」と呼ばれ、委任統治の速やかな終了と、遅くとも1948年8月1日までのイギリス軍完全撤退、そしてその2ヶ月後の新国家成立を定めていました。この提案は、ユダヤ人の民族主義運動であるシオニズムと、先住のアラブ人の民族主義が激しく対立していた状況に対応するための現実的な手段として提示されたものです。

この分割案に対して、ユダヤ人側の多くの人々は受け入れの姿勢を示しましたが、アラブ諸国やパレスチナのアラブ人指導者の大部分は強く拒否しました。決議が採択されると、この地域では直ちに内戦が勃発し、結果として国連の分割案が意図した形での実現には至りませんでした。

分割提案以前の状況

第一次世界大戦後、オスマン帝国崩壊に伴い、国際連盟はパレスチナをイギリスの委任統治下に置くことを承認しました。当初（1918年頃）の人口比率はアラブ人が圧倒的に多数を占めていました。1917年のバルフォア宣言では、イギリスはパレスチナにおける「ユダヤ人の民族的郷土（ナショナル・ホーム）」建設に賛意を示しましたが、同時に非ユダヤ系住民の権利を害してはならないと付言しており、その内容は曖昧でした。当時のイギリス政府内にも、アラブ系住民の反発を懸念する声がありました。

1930年代に入り、ユダヤ人移民が増加すると、アラブ人とユダヤ人の間の緊張が高まりました。1936年のアラブ反乱を経て、1937年にはイギリスのピール委員会が初めてパレスチナをアラブ国家、ユダヤ国家、国際地域の三つに分割する案を提示しました。この案は、ユダヤ側指導者の一部からは今後の交渉の出発点として条件付きで受け入れられましたが、アラブ側指導者は強く拒否しました。住民交換を伴う条項も含まれていましたが、これもアラブ側から拒否されました。

その後もイギリス政府は様々な解決策を模索しましたが、1938年のウッドヘッド委員会報告では、分割案の実現は極めて困難であると結論づけられました。1939年のマクドナルド白書では、ユダヤ人国家樹立を否定し、ユダヤ人移民を制限する方針が示されました。これに対し、ユダヤ側は抵抗し、違法移民活動や過激派組織の結成などが起こりました。第二次世界大戦中もパレスチナ情勢は緊迫したままでした。

国連パレスチナ特別委員会（UNSCOP）の活動

第二次世界大戦後、ホロコーストを生き延びた多数のユダヤ人難民のパレスチナへの受け入れ問題が喫緊の課題となりましたが、イギリスは従来の移民制限政策を維持しました。ユダヤ人組織はこれに強く反発し、武力抵抗を活発化させました。情勢が悪化する中、イギリスはパレスチナ問題の解決を国際連合に委ねることを決定し、1947年4月、国連に勧告を要請しました。

これを受けて、国連は1947年5月に11ヶ国の代表からなる国連パレスチナ特別委員会（UNSCOP）を設立しました。UNSCOPはパレスチナの現地調査や関係者からの聞き取りなどを実施しました。この調査期間中に発生したユダヤ人難民船「エクソダス号」がイギリスによって強制送還された事件は、国際世論に大きな影響を与え、UNSCOPの作業にも拍車をかけました。

1947年9月、UNSCOPは国連総会に報告書を提出しました。報告書では、委任統治の終了とパレスチナの独立については全委員が一致しましたが、独立後の国家形態については意見が分かれました。

- 多数派案（提案II）: 7ヶ国が支持した案で、「経済同盟を伴う分割案」を提案しました。これは、民族主義間の対立を背景に、アラブ国家、ユダヤ国家、エルサレム国際管理区に分けるというものでした。ユダヤ国家は将来の移民に対応するため、アラブ国家より若干広く設定されましたが、国土の大部分はネゲブ砂漠でした。
- 少数派案（提案III）: 3ヶ国が支持した案で、アラブ人とユダヤ人が歴史的権利を共有するパレスチナに、単一の連邦国家を樹立することを提案しました。これは、分割案がユダヤ人問題全体の解決につながらないことや、少数派保護の観点からより優れていると主張されました。

決議の採択プロセスと工作

UNSCOP報告書は、国連総会に設置されたパレスチナ問題に関する臨時委員会で詳細に審議されました。アラブ高等委員会とユダヤ機関の代表も議論に参加しました。アラブ側は分割・連邦案のいずれも拒否し、パレスチナ全域にアラブ国家を樹立することを求めました。ユダヤ側は分割案を概ね支持しましたが、国境線の一部修正を要求しました。

臨時委員会の下に設置された小委員会で、法的な問題提起（国連に分割を強制する権限があるかなど）がなされましたが、これは否決されました。最終的に、国境線に一部修正（ヤッファをアラブ国家の飛び地とするなど）が加えられた多数派案が臨時委員会で可決され、これが総会に提出されました。

総会での決議採択には、加盟国の3分の2以上の賛成が必要でした。投票直前に、決議案の支持を確保するための激しい政治工作が行われたとされています。特に、アメリカ合衆国からの各加盟国への圧力や、シオニスト支援者による働きかけが報じられています。アラブ側も工作を試みましたが、同時に、もし分割案が実施されれば中東地域でユダヤ人の安全が脅かされるだろうという警告や脅迫も行われました。

1947年11月29日、国連総会において投票が行われ、賛成33、反対13、棄権10、欠席1の結果、決議181号（II）としてパレスチナ分割案が採択されました。

決議採択後の反応とその後

決議採択後、パレスチナのユダヤ人コミュニティの多くは喜びを持ってこれを受け入れましたが、領土の小ささや非ユダヤ系住民の多さに不安を感じる声もありました。修正主義シオニズム派や過激派組織（イルグン、レヒ）は、国土の分割を拒否し、武力による抵抗や領土拡大の意向を示唆しました。

一方、アラブ側はパレスチナの内外を問わず、この決議に対して一貫して強い拒否姿勢を示しました。アラブ連盟の指導者らは、分割案の実施は戦争を招き、アラブ世界のユダヤ人に危険を及ぼすだろうと公に警告しました。パレスチナのアラブ指導者も、シオニストを全滅させるまで戦うと表明するなど、強硬な姿勢を崩しませんでした。

イギリス政府は、分割案をアラブ側に強制するつもりはないと表明し、1948年5月14日をもって委任統治を終了し、8月1日までに完全撤退することを発表しました。この撤退期間中、イギリスは国連への管理移管要請を拒否し、パレスチナは権力の空白状態に陥りました。

分割案は実際に施行されることなく、イギリスの委任統治終了と同時にイスラエルが独立を宣言し、アラブ諸国が介入したことで第一次中東戦争が勃発しました。この戦争の結果、パレスチナの大部分はイスラエルによって支配され、残りの地域はエジプト（ガザ地区）とトランスヨルダン（ヨルダン川西岸地区、東エルサレム含む）に分割占領されることとなり、多くのアラブ系パレスチナ人が難民となりました。

しかし、この決議181号は、その後のパレスチナ問題における重要な要素として残り続けました。パレスチナ解放機構（PLO）は1988年の独立宣言において、この決議をパレスチナ国家樹立の法的根拠の一つとして引用しています。また、2003年の国際司法裁判所の勧告的意見においても、決議181号はパレスチナの人々が自己決定権に基づき独自の国家を持つ資格があることを想定・確認したものであると示唆されるなど、現代におけるパレスチナ国家の正当性に関する議論においても言及されています。

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