パンチェン・ラマ9世

パンチェン・ラマ9世、トゥプテン・チューキ・ニマ師（1883年 - 1937年）は、第9代のパンチェン・ラマとして、激動の時代を生きました。彼の生涯は、チベット仏教、清朝、イギリス帝国、そして中華民国といった勢力の交錯の中で、複雑な政治的、宗教的影響を受けました。

生涯

1888年1月、トゥプテン・チューキ・ニマはパンチェン・ラマ8世の転生霊童として認定され、パンチェン・ラマ9世として即位しました。当時のチベットの宗主国であった清朝は、この即位を祝い、白銀を贈呈しました。これは、清朝がパンチェン・ラマの権威を認め、その影響力を利用しようとした表れと言えるでしょう。

20世紀初頭、チベットは列強の思惑が渦巻く地でした。1903年、フランシス・ヤングハズバンド率いるイギリス帝国軍がチベットに侵攻すると、1905年にパンチェン・ラマ9世はイギリス帝国領インドを訪問しました。これは、イギリスとの関係を模索し、政治的な立場を確立しようとした行動と考えられます。また、1911年には、清朝がイギリス帝国軍に反撃する際、ラサ市で協力しました。これは、パンチェン・ラマ9世が宗主国である清朝との関係を重視していたことを示しています。

ダライ・ラマ13世がロシア帝国やイギリス帝国に接近したのに対し、パンチェン・ラマ9世は清朝を頼り、ダライ・ラマ13世と政治的に対立しました。1911年の辛亥革命で清朝が滅亡すると、チベットの政治情勢は大きく変化しました。イギリス帝国の支援を受けたダライ・ラマ13世との権力闘争に敗れたパンチェン・ラマ9世は、1923年に中華民国への亡命を余儀なくされました。これは、パンチェン・ラマ9世にとって大きな転換点であり、その後の彼の活動に大きな影響を与えました。

1933年にダライ・ラマ13世が入寂すると、中華民国はチベットへの影響力を強めるため、パンチェン・ラマ9世のラサへの帰還を画策しました。しかし、その帰還が実現しないまま、1937年6月23日に青海省玉樹で入寂しました。彼の死は、チベット仏教界にとって大きな損失であり、その後のパンチェン・ラマの選定にも大きな影響を与えました。

弥勒仏像

パンチェン・ラマ9世は、宗教的な業績も残しています。タシルンポ寺の大弥勒殿には、彼が主宰して製作された弥勒仏像（高さ26.2m）があります。この弥勒仏像は、世界最大の銅製の坐仏像であり、パンチェン・ラマ9世の偉業を象徴するものとして、現在も多くの人々に崇拝されています。

パンチェン・ラマ9世は、激動の時代に翻弄されながらも、チベット仏教の発展に貢献しました。彼の生涯は、チベットの歴史における重要な一章であり、今日でも多くの人々に語り継がれています。

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