パンチェン・ラマ

パンチェン・ラマとは

パンチェン・ラマは、チベット仏教ゲルク派における重要な地位を持つ化身ラマの称号です。ダライ・ラマに次ぐ高位であり、無量光仏（阿弥陀如来）の化身とされています。転生によって後継者が決まる点が特徴です。

概要

パンチェン・ラマは、チベットのシガツェ市にあるタシルンポ寺の座主を務めます。ゲルク派内での序列は2位であり、その宗教的格式はダライ・ラマに匹敵するとも言われます。「天に太陽と月があるように、人間にはダライ・ラマとパンチェン・ラマがいる」と表現されることもあります。ただし、ダライ・ラマが宗教的権威とチベット国王を兼ねる政治的最高指導者であるのに対し、パンチェン・ラマの権限は基本的に宗教的なものに限られています。タシルンポ寺には歴代のパンチェン・ラマの霊塔が安置されています。

現代においては、パンチェン・ラマ11世として、ダライ・ラマ14世が認定したゲンドゥン・チューキ・ニマと、中華人民共和国国務院が認可したギェンツェン・ノルブの二人が存在するという複雑な状況になっています。

語源

「パンチェン」という言葉は、サンスクリット語の「パンディタ（学匠）」とチベット語の「チェンポ（偉大）」を組み合わせたものです。現代標準チベット語では「ペンチェン」と発音され、「ペンチェン・リンポチェ」や「タシ・ラマ」と呼ばれることもあります。モンゴル語では「パンチェン・エルデニ」と呼ばれます。

歴史

チベットのラサ市とシガツェ市は、チベット中央部の覇権を巡って対立してきました。そのため、シガツェ市の支配層はラサ市に対抗することが多くありました。チベット仏教においてゲルク派が隆盛となると、両市ともゲルク派が支配するようになり、ダライ・ラマ政権が成立すると、ダライ・ラマ5世からチベット仏教界の序列2位の地位を獲得しました。しかし、パンチェン・ラマとその派閥には世俗的な権力は与えられませんでした。

パンチェン・ラマと中国との関係は、清末に始まりました。1910年に四川総督の趙爾豊がラサを制圧した際、ダライ・ラマ13世はインドに脱出しましたが、パンチェン・ラマ9世はラサに留まり、趙爾豊による支配体制の確立に参加しようとしました。

その後、辛亥革命を経てダライ・ラマ13世が帰還すると、パンチェン・ラマ9世はチベット政府から疎まれ、1923年に中華民国の勢力圏に脱出しました。帰還交渉は不調に終わり、1937年にカム地方で死去しました。

9世の死後、転生者の候補が複数擁立され、1949年に中国国民政府が班禅行轅が選出した候補者を「パンチェンラマ10世」として認定しました。1951年には、中国共産党政権下でパンチェンラマ10世が即位しました。

チベット動乱後、ダライラマ14世はチベットを脱出しましたが、チューキ・ギャルツェンはチベットに留まり、中国政府の統治下でパンチェンラマとして活動しました。しかし、1962年に中国政府を批判したことで失脚し、14年間投獄されました。

パンチェン・ラマ11世問題

1989年にパンチェン・ラマ10世が急死した後、ダライ・ラマ14世はゲンドゥン・チューキ・ニマをパンチェン・ラマ11世として認定しましたが、中華人民共和国政府はこれを認めず、ギェンツェン・ノルブをパンチェン・ラマ11世として即位させました。ゲンドゥン・チューキ・ニマは1995年に行方不明となり、現在も消息が分かっていません。

この問題は、チベットの政治的状況と密接に関連しています。パンチェン・ラマの地位は、チベット自治区の安定支配を目指す中国政府と、チベットの高度自治権獲得を目指すダライ・ラマ側にとって重要な意味を持つため、単なる宗教的な問題に留まらない複雑な様相を呈しています。

関連項目

* ダライ・ラマ

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