ヒアルロン酸

ヒアルロン酸とは

ヒアルロン酸（ヒアルロンさん、英: hyaluronic acid）は、グリコサミノグリカンの一種で、ムコ多糖とも呼ばれます。学術的にはヒアルロナン（英: hyaluronan）という名称が用いられます。高い保水力を持ち、水分を保持することで粘性を示すのが特徴です。生体内では、皮膚、軟骨、眼球などに広く分布し、重要な役割を担っています。

ヒアルロン酸の構造と物性

ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとD-グルクロン酸が交互に結合した直鎖状の構造をしています。この二[[糖]]単位が繰り返し連結することで、非常に大きな分子量を持ちます。一般的に分子量は80万から120万程度とされますが、最大で200万に達することもあります。最小単位としては、分子量411のN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸が1分子ずつ結合したものが存在します。

ヒアルロン酸の基本構造は、グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンの2糖がβ-1,3グリコシド結合およびβ-1,4グリコシド結合で交互に結合した繰り返し構造です。ヒアルロニダーゼという酵素によって加水分解されます。1934年に牛の目の硝子体から初めて分離され、その高い保水能力から、1グラムで約6リットルの水を保持できることが知られています。

近年では、特許技術によりヒアルロン酸を低分子化する技術も開発されています。これにより、分子量411から8万の範囲で、様々な分子量のヒアルロン酸が得られるようになりました。

ヒアルロン酸の生体内での役割

ヒアルロン酸は、ヒトや脊椎動物の体内に広く分布しており、特に皮膚、関節、眼球の硝子体に多く存在します。ヒトでは、ヒアルロン酸の約半分が皮膚に存在すると言われています。皮膚では、水分を保持して乾燥を防ぎ、細胞組織を保護する役割を果たしています。また、関節では水分保持によって粘性を示し、関節の摩耗を防ぎます。関節軟骨では、アグリカンやリンクタンパク質と結合し、軟骨の機能維持に重要な役割を担います。

ヒアルロン酸は、悪性胸膜中皮腫の腫瘍マーカーとしても知られています。また、早老症や肝硬変の患者では、尿中や血清中のヒアルロン酸濃度が高くなることが報告されています。紫外線によって皮膚中のヒアルロン酸やコラーゲンが損傷するとされ、加齢とともに皮膚のヒアルロン酸量は減少します。このことが、加齢による皮膚の水分低下、弾力性の低下、萎縮に繋がると考えられています。

ヒアルロン酸は細胞表面のCD44受容体に結合します。

ヒアルロン酸の工業生産と利用

産業用には、主に鶏冠からヒアルロン酸が抽出されますが、乳酸菌が生産するヒアルロン酸の利用も進んでいます。医療用には、動物由来でないコラーゲンが使われることもあります。

ヒアルロン酸は、食品、医薬品、化粧品など幅広い分野で利用されています。食品としては1942年に、医薬品としては1960年に、配合化粧品としては1979年に初めて利用されました。日本では1992年以降、栄養補助食品としても販売されています。

医療分野での利用

ヒアルロン酸の注射は、変形性[[関節症]]の治療法の一つとして用いられています。また、顔のシワや唇への注射は、FDAによって承認されており、美容目的での利用も広まっています。目のくぼみの治療にもヒアルロン酸注入が用いられています。

膝関節の変形性[[関節症]]では、ヒアルロン酸注射が痛みの緩和に効果があるとされていますが、肩の上腕骨関節炎では、効果は偽薬と同程度である可能性も指摘されています。変形性[[関節症]]の治療では、低分子ヒアルロン酸よりも高分子ヒアルロン酸の方が炎症誘発性が低く、より良い治療結果をもたらす可能性があるという研究結果も出ています。

美容目的のヒアルロン酸注入剤としては、ジュビダーム、ボルベラ、レスチレン、テオシアルなどが人気です。ヒアルロン酸はヒアルロニダーゼによって分解できるため、過剰な注入量の場合でも対応が可能です。しかし、動脈に誤って注入されると、皮膚組織の壊死や失明といった重篤な副作用を引き起こす可能性があります。

創傷治癒の分野では、ヒアルロン酸が傷の回復を遅らせるという研究結果も報告されていますが、歯科領域では、歯周炎や口腔潰瘍の治療に効果的であるという研究結果が多く報告されています。また、眼科領域では、角結膜上皮障害や白内障手術時の前房保持剤として利用されています。さらに、がんの放射線治療の増感剤としての利用も研究されています。

子宮頸がんの放射線治療による膣萎縮を抑えるための、低分子ヒアルロン酸とビタミンA、ビタミンEを配合した膣坐薬も開発されています。

美容分野での利用

ヒアルロン酸は、化粧品に保湿成分として添加され、皮膚表面の水分を保持する効果があります。以前は、高分子ヒアルロン酸は皮膚への吸収が難しいと考えられていましたが、低分子化技術の進歩により、皮膚への浸透性が高まりました。現在では、様々な分子量のヒアルロン酸が化粧品に配合され、肌の水分量や弾力性の改善に役立っています。

ヒアルロン酸をナノ化することで、皮膚バリアを通過させることが可能となり、マイクロニードル技術を用いて肌への浸透性を高める化粧品も開発されています。これにより、痛みを伴う注射ではなく、より手軽にヒアルロン酸を肌に届けることができるようになりました。

経口摂取での効果

ヒアルロン酸は、食品としても摂取できます。経口摂取されたヒアルロン酸は、腸内細菌によって低分子化され、体内に吸収されます。経口摂取による効果として、乾燥肌の改善や膝の違和感の緩和などが報告されています。

多くの研究では、ヒアルロン酸の経口摂取が皮膚の水分量増加に効果的であることが示されていますが、研究結果にはばらつきがあり、効果がないと結論付けられている研究も存在します。また、分子量の違いによって効果が異なる可能性も示唆されています。基礎研究では、ヒアルロン酸が腸管のTLR4受容体に結合し、免疫反応を調整する可能性も示唆されています。

まとめ

ヒアルロン酸は、高い保水力を持つ多機能な物質であり、医療、美容、健康食品など、幅広い分野で活用されています。その効果は分子量や利用方法によって異なり、現在も多くの研究が行われています。

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