ヒエロニュムス・フォン・コロレド

ヒエロニュムス・フォン・コロレド伯爵

ヒエロニュムス・フランツ・デ・パウラ・ヨーゼフ・フォン・コロレド伯爵（Hieronymus Franz de Paula Josef Graf Colloredo von Waldsee und Mels）は、1732年5月31日に神聖ローマ帝国、現在のオーストリアにあたる地域の首都ウィーンで誕生し、1812年5月20日に同地で永眠しました。彼はザルツブルクの領邦君主であり、同時に大司教という要職を務めた人物として歴史に名を刻んでいます。

生涯

コロレド伯爵は、父ルドルフ・ヨーゼフ・コロレド伯爵のもとに生まれました。父ルドルフは神聖ローマ帝国の副宰相という高位にあり、また伯父カールもドイツ騎士団のオーストリア管区長を務めるなど、彼は帝国の枢要に関わる名門貴族の家系出身でした。ザルツブルク大司教の地位は、先代のシュラッテンバッハ伯爵の死去に伴い、彼が継承することとなりました。ザルツブルクは当時、神聖ローマ帝国に属する独立した領邦であり、その大司教は宗教的権威と世俗的統治権を併せ持つ存在でした。コロレド伯爵は、啓蒙主義の影響を受けたとされ、領邦内の様々な改革を試みたことで知られています。しかし、彼の改革は伝統的な制度や権益を持つ層との間に摩擦を生じさせることも少なくありませんでした。彼の治世末期、ナポレオン戦争などの影響下で神聖ローマ帝国が解体に向かう中、ザルツブルク大司教領もまた激動期を迎えました。1803年には、大司教領はその領邦としての地位を失い世俗化され、これによりコロレドは領邦君主としての権力を喪失しました。彼はその後、純粋な聖職者としての地位を保ち、生地であるウィーンで晩年を過ごし、1812年にその生涯を終えました。

モーツァルトとの関係

ヒエロニュムス・コロレド伯爵の最も著名な側面の一つは、天才音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトとの主従関係、そしてその後の決定的な対立です。コロレドが大司教に就任した当初、ザルツブルク宮廷に仕えていたモーツァルト親子（父レオポルトと息子ヴォルフガング）に対しては、むしろ好意的な態度を示していたと言われています。モーツァルトの非凡な才能を認め、国外への演奏旅行を許可するなど、理解を示す場面も見られました。しかし、モーツァルトが自身の芸術家としての独立心を強め、雇用主である大司教の意向や宮廷のしきたりよりも、自身の創作活動やより大きな機会を追求するようになるにつれて、両者の間には深刻な軋轢が生じるようになりました。モーツァルトはザルツブルクでの活動や待遇に不満を募らせ、一方のコロレド大司教はモーツァルトの自由奔放な行動や度重なる休暇申請、そして当時の基準からすれば破格ともいえる報酬に対して不満を抱くようになりました。この対立は、1781年に決定的な破局を迎えます。ウィーン滞在中のモーツァルトとコロレド大司教の間で激しい口論が起こり、最終的にモーツァルトは大司教の命により、屈辱的な形でザルツブルク宮廷楽団楽長の地位を解雇されました。この出来事は、モーツァルトがザルツブルクを完全に離れ、ウィーンでフリーランスの音楽家として活動を開始する直接的な契機となり、その後の彼のキャリア形成と音楽史における位置づけに計り知れない影響を与えました。後世、この関係性は芸術家と権力者の間の葛藤の象徴としてしばしば語られ、コロレド大司教はモーツァルトの才能を理解しない人物として描かれがちですが、当時の社会構造や雇用慣行を考慮に入れた多角的な視点も存在します。しかし、彼のモーツァルト解雇という判断が、結果としてモーツァルトの創作活動の新たな扉を開いたことは間違いありません。

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