ヒジュラ

ヒジュラの背景と意義

ヒジュラ（アラビア語: هِجْرَة）は622年にイスラームの預言者ムハンマドがマッカからマディーナへ移住した出来事です。この出来事は、イスラーム共同体の成立や、後のイスラーム社会の基盤を築く重要な出来事として位置付けられています。また、ヒジュラ暦の起点ともなっています。

ヒジュラの前の状況

ムハンマドは610年頃からアッラーの啓示を受け、614年にはマッカでの宣教を開始しました。しかし、彼の教えに対する反発が強まり、信奉者たちは迫害を受けるようになります。615年には、ムハンマドの指導の下、100人以上のムスリムがエチオピアへ亡命しました。この亡命は彼らに一定の安全をもたらしましたが、マッカに残された信者たちはますます迫害の対象となります。

619年には、ムハンマドの妻ハディージャや叔父アブー・ターリブの死が彼に対する支援を失わせ、迫害はさらに厳しくなります。ムハンマドは他の地域からの庇護を求めるため、ターイフに向かいますが、そこでの接触も失敗に終わります。このような困難な選択肢がマディーナへの移住を促す根本的な要因となりました。

ヤスリブとの接触

620年、ムハンマドはカアバを訪れた際にヤスリブから来た6人の巡礼者と出会いました。彼らは、ムハンマドの教えに感銘を受け、帰国後に地元の部族とその教えを広める活動をしました。ヤスリブは、部族間の抗争が続いており、安定した指導者を求めていました。このような背景から、622年にヤスリブからの使節団がムハンマドに武力での支持を誓います。

ヒジュラの実行はここから始まります。ムハンマドはムスリムたちに、身の安全を確保するため、ヤスリブへ向かうよう指示を出しました。ムスリムたちは分散して密かに出発し、約70人がヤスリブへの移住を果たします。これに続いて、ムハンマド自身もアブー・バクルと共に、マッカを離れる決意を固めました。

ムハンマドの脱出と洞窟での潜伏

ムハンマドはマッカを脱出する際、暗殺計画を察知し、アリーを息子のベッドに寝かせて身代わりにさせました。深夜に彼とアブー・バクルは、家の裏口から静かに出発します。最初はイエメンの方向へ向かい、サウル山の近くの洞窟で3日間隠れます。この間、家族や信者が彼らに食料を届け、彼らの位置を隠します。

ヤスリブでの受け入れ

洞窟での潜伏後、彼らはヤスリブに向かい、途中でクバーという地域で最初のモスクを建設しました。ヤスリブに到着すると、ムスリムたちはムハンマドを迎えるために集まり、彼の訪問を祝いました。このように、ヒジュラによって、ムハンマドを中心とするイスラームの共同体であるウンマが形成されることとなります。

意義と影響

ヒジュラはイスラームにとって非常に重要な出来事で、マディーナを拠点にしたムハンマドとその仲間たちは、イスラームの教えを広め、後に大規模な征服活動へとつながる基盤を築きます。また、622年がヒジュラ暦元年とされたことで、イスラームの歴史において重要なマイルストーンとして認識されています。ヒジュラは、信仰の自由を求める人々にとっての象徴的な出来事として、今日でも大切にされています。

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