ヒドロコドン

ヒドロコドン

ヒドロコドン（化学名ジヒドロコデイノン）は、ケシから抽出されるアルカロイドであるコデインを原料として人工的に合成される半合成オピオイドに分類される薬物です。主な医療用途として、中等度から重度の痛みを和らげる強力な鎮痛薬として、あるいはしつこい咳を鎮める鎮咳薬として用いられます。通常は口から服用する形で投与されます。

医療における使用

ヒドロコドンは、鎮痛薬としては特に手術後や怪我などによる比較的強い痛みの管理に用いられます。鎮咳薬としては、痰を伴わない乾いた咳などに効果が期待できます。

他のオピオイド鎮痛薬との比較では、薬効の強さにばらつきのある報告が存在します。例えば、ある研究では、オキシコドンと同程度の効果を得るためには、ヒドロコドンを約1.5倍量投与する必要がある、すなわちオキシコドンの方がヒドロコドンより約50%強力であると結論付けられています。一方で、救急医療の現場で行われた骨折患者を対象とした研究では、同等量でほぼ同程度の疼痛緩和効果が見られ、両薬剤間に大きな差はないとの報告もあります。

効果が発現し始めるまでの時間については、いくつかの文献では服用後20分から30分とされていますが、メーカー公表データではより早く10分から30分とされています。効果の持続時間も文献によって約4時間から8時間、メーカーデータで約4時間から6時間と幅があり、推奨される次の投与までの間隔は通常4時間から6時間とされています。

副作用と依存性

ヒドロコドンの使用において最も注意が必要なのは、その強い依存性です。この薬物は、身体的および精神的な依存を容易に引き起こし、薬物への強い渇望や探索行動といった「嗜癖」を形成する可能性があります。もし乱用された場合、その使用パターンは同じオピオイドであるモルヒネの乱用と類似すると考えられています。

米国における状況

ヒドロコドンは、特にアメリカ合衆国で非常に広く処方されてきました。アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤と組み合わせた配合剤が多数存在し、中でも「バイコディン」という商品名はよく知られています。国際的な報告によると、2007年には世界のヒドロコドン供給量のうち、実に99%がアメリカ国内で消費されたとされており、その消費量の異常な高さがうかがえます。

この高い消費量と薬物自体の強い依存性が相まって、アメリカではヒドロコドンの乱用が深刻な社会問題となっています。この問題に対処するため、アメリカ合衆国政府は2014年にヒドロコドンの処方に関する規制を強化しました。具体的には、連邦規制物質法に基づく管理区分を、それまでのスケジュールIIIからより厳格なスケジュールIIへと変更し、処方のハードルを上げました。

薬物乱用に関連する健康被害も増加傾向にあり、2011年にはアメリカ国内で約10万件もの救急搬送がヒドロコドンの乱用に関連していたと報告されており、これは2004年の関連件数の2倍以上に相当します。市場で流通していたヒドロコドン含有医薬品、特にバイコディンが、処方箋があれば比較的容易に入手できていた時期があったことも、問題の拡大を招いた一因と指摘されています。

この深刻な依存症問題は、デイミアン・トンプソン氏の著書『依存症ビジネス』などでも詳しく取り上げられています。また、著名人の間にもヒドロコドンまたはその含有製剤の依存症を経験したとされる人物が少なくありません。俳優のマシュー・ペリー氏やタイガー・ウッズ氏などが知られています。テレビドラマなどでも、薬物問題の題材としてバイコディンがしばしば登場するなど、アメリカ社会に根深く浸透した問題として認識されています。

日本での承認状況

2018年現在、ヒドロコドンは日本では医薬品として承認されていません。

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