ヒナ (女神)

ポリネシア神話における女神ヒナ：多様な姿と役割

ポリネシアの島々には、ヒナという名の女神が登場する多様な神話が存在します。彼女は単なる一人の女神ではなく、それぞれの島や文化圏において、独自の解釈と役割を担っています。本稿では、ハワイ、ニュージーランド、クック諸島、ソシエテ諸島、そして台湾におけるヒナの姿を紐解き、その多様な側面に迫ります。

ニュージーランド：夜と死、そして太陽

ニュージーランドのマオリ神話において、ヒナは夜と死を司る神ヒネ・ヌイ・テ・ポ、あるいは太陽神マウイの姉妹として登場します。具体的には、Hina-Ika（魚の女性）とHina-Keha（明るい女性）という二つの姿で描かれており、それぞれの役割や性格は異なるようです。夜と死を司る存在としてのヒナと、太陽神マウイの姉妹としてのヒナ。対照的な側面を持つこれらの神話は、マオリの人々の世界観を反映していると言えるでしょう。

クック諸島：大洪水とココナッツ

クック諸島の神話では、ヒナは美しい少女として描かれています。彼女はウナギの精から変身した美しい若者、トゥナと恋に落ちます。大洪水という災厄に見舞われた際、トゥナのおかげで難を逃れたヒナは、彼の遺言に従い、トゥナの首を地面に埋葬します。すると、その場所からココナッツの木が生えてきたという物語が語り継がれています。この物語は、ココナッツの起源を説明するだけでなく、ヒナとトゥナ、そして自然との深いつながりを示唆しています。

ソシエテ諸島：愛と嫉妬、そしてココナッツ

ソシエテ諸島のタヒチ神話では、ヒナはウナギの神テトゥナと結婚しますが、彼に飽きてしまいます。その後、彼女は愛人を求めてさまよい、ついに太陽神マウイと結ばれます。テトゥナはマウイの家にしばらく滞在しますが、二人の間で決闘が起こり、マウイがテトゥナの首を埋めたところからココナッツの木が生えてきたという物語があります。この物語は、クック諸島の神話と同様に、ココナッツの起源を説明するとともに、ヒナの奔放な性格と、神々世界の複雑な人間関係を描写しています。

ハワイ：月と大地の女神

ハワイ神話では、ヒナは女性のシンボルとして、男性のシンボルであるクーと対比的に描かれることがあります。ハワイ神話の研究者であるマーサ・ベックウィズは、ヒナをカーネ、クー、ロノ、カナロアと並ぶ5大神の一柱として位置づけ、「Hina-Hanaia-i-ka-Malama」（月で働く女性）を彼女の化身として記述しています。この記述は、ヒナが単なる人間的な女神ではなく、宇宙的な存在として捉えられていた可能性を示唆しています。彼女は月と大地を象徴し、ハワイの自然と文化の根幹をなす存在として敬われていたのでしょう。

台湾：五年祭と祖先の約束

台湾のパイワン族の五年祭は、先祖が女神ヒナから農耕や族長の婚礼といった重要な儀式を学び、彼女との間で交わした約束を起源とするという伝承があります。この伝承は、ヒナが単に自然や宇宙を司る存在だけでなく、文化や社会の秩序、そして人々の生活に深く関与する存在であったことを示しています。

まとめ

このように、ポリネシア各地におけるヒナ神話は、多様で豊かな内容を持っています。それぞれの文化圏において、彼女は異なる姿と役割を担い、人々の信仰や生活に深く関わってきました。これらの神話を通して、ポリネシアの人々の自然観、世界観、そして文化の多様性を垣間見ることができるのです。ヒナの物語は、単なる神話としてだけでなく、ポリネシア文化を理解する上で重要な手がかりを与えてくれると言えるでしょう。

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