ヒネミ

劇作『ヒネミ』の紹介

宮沢章夫が手掛けた戯曲『ヒネミ』は、1992年に彼の劇団で初めて上演され、その独自の内容と演出手法が話題を呼びました。この作品は、失われた小さな町「日根水」を巡る主人公・佐竹の記憶の旅をテーマにしています。

初演と受賞

初演は宮沢自身の演出で、温水洋一が主演を務めました。その後、1995年には山崎一が新たに主演を飾る再演も行われ、作品の普遍性が示されました。また、この戯曲は1993年度の岸田國士戯曲賞を受賞しており、文学的にも高い評価を得ています。

物語の概要

物語は、主人公の佐竹が幼少期を過ごした町「日根水」を追憶することから始まります。彼の懐かしい思い出の中での成長の過程は、観客に深い感情を呼び起こします。その後、大人になった佐竹は、地図作成の機関で働いていることが明らかになります。

彼は私的な目的で、「日根水」を再現するための地図作りに取り組んでいます。この過程で、佐竹は同僚に町の概要を説明しようとしますが、次第にその説明は曖昧になり、彼の記憶と現実の境界が薄れていく様子が描写されます。

記憶と喪失

物語の展開は、兄の死の謎や、消滅した町と同じ名前を持つ少女の存在など、様々な要素が絡み合いながら進行していきます。これにより、観客は佐竹の内面的な葛藤を感じ取り、彼の心の奥に秘めた悲しみや喪失感に触れることができます。

さらに、宮沢の劇特有の特徴として「え？」という聞き返しや、会話の微妙な行き違いが随所に散りばめられており、これが物語に独特のリズムを生み出しています。このような対話のやり取りは、日常の中に潜む不確かさやコミュニケーションの難しさを象徴しています。

その後の作品

『ヒネミ』の成功を受けて、宮沢は同様のテーマを扱った『ヒネミの商人』（1994年）や『蜜の流れる地』（1996年）といった作品も執筆しました。これらはまとめて「ヒネミもの」と呼ばれることもあります。こうした一連の作品群は、彼の創作における探索の延長線上にあり、記憶や喪失、存在の本質についての深い問いかけを続けています。

『ヒネミ』は、単なる戯曲以上の作品であり、観客に思索を促し、感情を揺さぶる魅力を秘めています。宮沢章夫の才能が光るこの劇を通じて、彼の独特な世界観を体験することができます。

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