ヒミズ (漫画)

古谷実の漫画作品である『ヒミズ』は、2001年から2002年にかけて講談社の『週刊ヤングマガジン』で連載されました。作者のこれまでのユーモラスな作風とは一線を画し、『笑いの時代は終わりました…。これより、不道徳の時間を始めます。』という挑発的なキャッチコピーが象徴するように、人間の心に潜む深い闇や不条理に焦点を当てたサスペンスホラー作品です。全4巻の単行本のほか、新装版や文庫版も刊行されています。

物語のあらすじ

物語の中心人物は、川辺で貸しボート屋を切り盛りしながら暮らす中学三年生の住田祐一。彼は自身の恵まれない環境にどこか達観しながらも、ごく普通の穏やかな日々を心から願っていました。しかし、蒸発と帰還を繰り返す実父にまつわるトラブルから、理不尽な暴力に巻き込まれてしまいます。さらに、唯一の肉親である母親が中年男性と駆け落ちして姿を消したことで、住田は完全に孤立無援の状態に置かれます。追い詰められた彼は、耐えきれず衝動的に父親を殺害するという取り返しのつかない過ちを犯し、天涯孤独の身となります。

普通の人生を送る望みを断たれた住田は深い絶望に沈み、「自分は特別な存在に墜ちてしまった」と考えます。そして、「悪い奴」を殺すことで自身の存在意義を見出そうと、夜の街を徘徊し始めます。そんな住田を、以前から気にかけていたクラスメイトの茶沢景子が救い出そうと奔走します。住田が殺人を犯した後も、茶沢は彼に寄り添い続けますが、住田の人生はさらに過酷な方向へと傾いていきます。

主要な登場人物

住田 祐一（すみだ ゆういち）
本作の主人公。中学三年生。両親は幼い頃に離婚し、母と貸しボート屋を営んでいました。冷めた現実主義者で、平凡な生活を何よりも望みますが、周囲に見えない「化け物」に苦しめられています。父殺害と母の失踪を経て孤独になり、「オマケ人生」と称して「悪い奴」狩りを始めます。
茶沢 景子（ちゃざわ けいこ）
住田のクラスメイト。目立たず地味な雰囲気ですが、住田の異変にいち早く気づき、彼を深く愛するようになります。常軌を逸した行動に走る住田を唯一止めようとする存在です。
夜野 正造（よるの しょうぞう）
住田の親しい友人。過去にいじめられていたところを住田に助けられました。金に執着し、スリや喫煙を常習していますが、住田の事件をきっかけに一度は絶交されるものの、後に和解します。
小野田 きいち（おのだ きいち）
赤田の従兄弟。漫画家を目指しており、実力も兼ね備えています。温厚な性格で交友関係も広く、住田とも最初は衝突しますが、後に友人となります。
* 飯島 テル彦（いいじま テルひこ）
スリ常習犯の若者。夜野と強盗を計画し、誤って家主を殺害してしまいます。逮捕を恐れ、夜野の殺害まで企てますが失敗に終わります。

派生作品

本作は様々なメディアで展開されています。2004年にはOi-SCALEによって、2021年には劇団時間制作によって舞台化されました。

小説版は、山﨑燕三著『小説 ヒミズ ver.Keiko Chazawa』（2007年）として刊行され、茶沢景子の視点から物語が描かれています。漫画版に忠実でありながらも、一部設定の変更やエピローグの追加が見られます。2012年には再編集された『小説ヒミズ 茶沢景子の悠想』が再刊されました。

そして、2012年には園子温監督によって実写映画化されました。この映画版は、東日本大震災の影響を受けて原作から設定が大幅に変更された箇所があり、賛否両論を呼びましたが、主演の染谷将太と二階堂ふみは第68回ヴェネツィア国際映画祭で新人俳優賞を受賞するなど、国内外で高く評価されました。ロケは主に茨城県で行われましたが、宮城県石巻市でも撮影が行われています。暴力描写が含まれるため、PG12指定となりました。

『ヒミズ』は、平凡を願う少年が過酷な現実に打ち砕かれ、暗闇に足を踏み入れてしまう過程を赤裸々に描いた作品として、読者に強烈な印象を与えました。様々な視点から描かれた派生作品も含め、その深いテーマは今なお多くの人々に問いかけ続けています。

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