ヒルダ・ドゥリトル

ヒルダ・ドゥリトル：20世紀モダニズムの詩人、そしてその波乱に満ちた生涯

ヒルダ・ドゥリトル（1886年-1961年）、ペンネーム「H.D.」として知られる彼女は、20世紀モダニズムを代表する詩人、小説家、回想録作家です。アメリカ合衆国ペンシルベニア州の生まれで、エズラ・パウンドやリチャード・オールディントンらと共にイマージズム運動の中心的役割を担い、その革新的な詩作で知られています。

華麗なる出発とイマージズム運動

1886年、モラヴィア教会員の家庭に生まれたドゥリトルは、裕福な環境で育ちました。父はリーハイ大学の天文学教授でした。幼少期から秀才で、ブライン・モウワ・カレッジでギリシャ文学を学びましたが、成績不振のため中退しています。しかし、この頃すでに詩作を始め、エズラ・パウンドと出会い、友情を育んでいました。パウンドはその後、ドゥリトルの詩作に多大な影響を与え、彼女のキャリアを大きく後押しすることになります。

1911年、ドゥリトルはロンドンに移住し、イマージズム運動に深く関わるようになりました。イマージズムは、具体的なイメージを重視し、飾り気のない簡潔な表現を特徴とする詩的運動です。彼女はオールディントンと共に、自由詩、短歌、俳句の要素を取り入れ、従来の詩の形式や表現を革新しようとしていました。その詩作は、自然や古代ギリシャ神話から着想を得ることが多く、鮮烈なイメージと感覚的な表現が特徴です。

イマージズム運動の宣言ともいえる作品をパウンドと共作し、その活動は、当時創刊されたばかりの文学雑誌「ポエトリー」にも掲載されました。ドゥリトルの作品は、運動の主要な作品として高い評価を受けました。また、古代ギリシャ文学への造詣も深く、エウリピデスの戯曲を翻訳するなど、古典文学への関心を詩作に反映させていました。

愛と喪失、そして戦争の影

ドゥリトルの私生活は、激動の時代を反映するように波乱に満ちていました。彼女はリチャード・オールディントンと結婚しますが、第一次世界大戦によって兄弟の死や結婚生活の破綻といった大きな悲劇に見舞われました。これらの経験は、彼女の後の詩作に深い影を落とします。また、彼女は男性だけでなく女性とも多くの恋愛関係を持ち、複雑な恋愛遍歴を送りました。

大戦中は、夫の戦場への参加、そして兄弟の戦死という事実を経験します。これらの出来事が、彼女の詩に大きな影響を与えたことは間違いありません。また、このころ彼女はD.H. ローレンスとも親密な関係を築きます。

フロイトとの出会い、そしてフェミニズムへの貢献

1930年代には、フロイトの精神分析を受けました。自身の両性愛を理解し、表現するために、フロイトの患者となったのです。これは、彼女の詩作や人生観に大きな影響を与え、後のフェミニスト運動において重要な位置を占めることになります。

第二次世界大戦後、彼女はスイスに移住し、晩年はアメリカ芸術院のメダルを受賞するなど、高い評価を受けました。しかし、晩年も脳卒中で他界するまで、創作活動を続けました。

再評価とフェミニズム

ドゥリトルの作品は、1970年代以降、フェミニズムの観点から再評価され、高い評価を受けています。彼女の詩は、性役割や伝統的な叙事詩のテーマをフェミニスト的な視点から探求しており、近年の女性詩人にも多大な影響を与えました。

作品リスト

詩集
海の庭園 (1916)
神 (1917)
翻訳 (1920)
処女膜 (1921)
ヘリオドラ、その他の詩 (1924)
煮え切らないヒッポリュトス (1927)
ブロンズに赤いバラ (1932)
落ちない壁 (1944)
天使への贈り物 (1945)
三部作 (1946)
棒の開花 (1946)
アブロン川の傍で (1949)
エジプトのヘレン (1961)
密封した定義 (1972)

散文
思想と構想に関する注釈 (1919)
それは今日塗ろう (1921執筆、1992出版)
アスフォデル (1921–22執筆、1992出版)
パリンプセスト (1926)
コラとカ (1930)
夜 (1935)
ヘッジホッグ (1936)
フロイトに捧げる (1956)
私に生きるよう命じて (1960)
苦痛の終わり: エズラ・パウンドの思い出 (1979)
ハーミオン (1981)
贈り物 (1982)
マジック・リング (1943–44執筆、2009出版)
剣は海へ放たれる (1946–47執筆、2007出版)
白いバラと赤 (1948執筆、2009出版)
ミステリー (1948–51執筆、2009出版)

ヒルダ・ドゥリトルは、イマージズム運動の中心人物として活躍しただけでなく、複雑な恋愛遍歴やフロイト心理学との関わりを通して、独自の詩世界を築き上げた詩人でした。彼女の作品は、現代においてもなお、多くの読者や作家に影響を与え続けています。

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