ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ

ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ、通称ヒルダは、田中芳樹のSF小説『銀河英雄伝説』に登場する、銀河帝国側の重要な人物です。彼女は、ラインハルト・フォン・ローエングラムの首席秘書官、そして後に彼の妻となる皇妃として、帝国の歴史に深く関わります。

概要

ヒルダは、その若さにも関わらず、帝国の未来を見据え、ラインハルトの才能をいち早く見抜いた聡明な女性です。リップシュタット戦役において、彼女は父にローエングラム陣営への支持を進言し、自ら人質となることで、その忠誠を示しました。この決断は、帝国の勢力図を大きく変えるきっかけとなります。

ラインハルトの首席秘書官として、ヒルダは内政や人事において卓越した手腕を発揮します。軍事的な才能を持つ者が多いローエングラム陣営において、彼女は非軍人かつ女性という視点から、冷静かつ客観的な意見を述べ、ラインハルトを支えました。ミッターマイヤーをはじめとする帝国軍の将軍たちからも、その知性と人格を高く評価され、信頼を集めます。

物語の終盤、ヒルダはラインハルトと結婚し、皇妃となります。ラインハルトの死後、彼女は幼い息子アレクの摂政として国政を担い、ローエングラム朝を安定させました。その功績から、彼女は「ローエングラム朝の育ての親」と称えられています。

略歴

帝国暦468年、ヒルダはマリーンドルフ伯爵家の令嬢として生まれます。19歳の時、父がカストロプに拘禁された事件をきっかけに、キルヒアイスに救出され、ローエングラム陣営との繋がりが生まれます。その後、リップシュタット戦役において、彼女はラインハルトへの忠誠を誓い、その才能を認められ、宰相首席秘書官に抜擢されます。

キルヒアイスを失ったラインハルトにとって、ヒルダは政戦両略の相談相手として重要な存在となります。彼女は、ラインハルトの公私にわたるサポートを行い、彼の危機を幾度となく救います。ラグナロック作戦時には、中佐待遇で従軍し、その智謀を発揮しました。

ラインハルトの皇帝即位後、ヒルダは皇帝主席秘書官に昇進します。新帝国暦2年、戦没者墓地の完工式でラインハルト暗殺未遂事件が発生。ヒルダは、ショックを受けたラインハルトを慰め、二人は結ばれます。その後、ヒルダは妊娠し、ラインハルトからの求婚を受け入れ、皇妃となりました。

新帝国暦3年5月14日、柊館炎上事件が発生。その最中に陣痛が始まったヒルダは、アレク大公を出産します。しかし、同年7月26日、ラインハルトが崩御。ヒルダは、幼いアレクの摂政皇太后として、帝国の舵取りを担うことになります。

能力

ヒルダは、客観的で合理的な思考を持ち、卓越した政治センスを発揮します。銀河帝国の男性優位社会において、彼女は自らの才能を最大限に活かし、数々の功績を挙げました。リップシュタット戦役や要塞対要塞戦など、重要な局面で的確な意見を進言し、ラインハルトを支えました。

彼女は、他者の心理を読み解く能力にも長けており、帝国軍の中で最もヤン・ウェンリーの性格や気質を理解していたと言われています。オーベルシュタインのような人物ではなく、ヤンのような人物が異なる意見を持つ人々の調整役になることを望んでいました。

人柄

ヒルダは、活き活きとしたブルーグリーンの瞳が印象的な、硬質の美貌を持つ女性です。温厚な性格でありながら、強靭な精神力を持っており、オーベルシュタインにも臆することなく意見を述べることができました。ラインハルトの感情的な一面を受け止め、彼を支える寛容さも持ち合わせています。

恋愛経験は乏しかったものの、ラインハルトとの出会いを通じて、徐々に彼への愛情を深めていきます。広い視野と卓越した分析力を持つ彼女は、ラインハルトに対して、時には諫言も辞さない、控えめな年長者のような態度で接します。

幼少の頃から、貴族の令嬢らしい趣味には興味を示さず、野山を駆け回る活発な少女でした。そのため、マグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ男爵夫人とは気が合い、親交を深めています。

家族

ヒルダの母親は物語開始前に亡くなっており、父親のマリーンドルフ伯爵と二人暮らしでした。結婚後は、夫のラインハルトと長男のアレク大公と共に過ごしましたが、その時間はわずか8日間でした。

その他エピソード

小説では、ヒルダとキルヒアイスの対面は描かれていませんが、OVA版ではカストロプ動乱終結後に二人が出会う場面が描かれています。

結婚当初、ヒルダとラインハルトは互いを名前で呼び合おうとしましたが、すぐにラインハルトはヒルダを「皇妃」、ヒルダはラインハルトを「陛下」と呼ぶようになりました。これは、二人が家族となるための時間が十分に与えられなかったことを象徴するエピソードと言えるでしょう。

ユリアン・ミンツとの会談で、ラインハルトは「皇妃は余よりはるかに政治家としての識見に富む」と述べていますが、これはラインハルトなりの最大の愛情表現だったとユリアンは回想しています。

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