ビアンカ・カッペッロ

ビアンカ・カペッロ（1548-1587）は、ルネサンス期のイタリアを生きた女性で、トスカーナ大公フランチェスコ1世・デ・メディチの二度目の妃となった人物である。裕福なヴェネツィア貴族カペッロ家の出身であり、その傑出した美貌は広く知られていた。

波乱の始まり：駆け落ち

彼女の人生は劇的な展開を見せる。15歳を迎える頃、銀行家サルヴィアーティ家に勤めるフィレンツェの青年、ピエトロ・ボナヴェンチュリと恋に落ちた。二人は家柄の違いという壁に直面し、1563年11月、周囲の反対を押し切ってフィレンツェへ駆け落ちし、結婚した。当地でピエトロとの間に長女ペレグリーナをもうけた。一方、故郷ヴェネツィアの政府は、名門カペッロ家の娘の出奔を重く見て、彼女を連れ戻し逮捕しようとあらゆる手段を講じた。しかし、当時のトスカーナ大公コジモ1世はビアンカを庇護し、ヴェネツィア政府の干渉を退けたため、彼女はフィレンツェでの生活を続けることができた。

大公太子との出会い

フィレンツェでの結婚生活は必ずしも幸福ではなかったと伝えられる。そんな中、ビアンカは将来トスカーナ大公となる大公太子フランチェスコ・デ・メディチの目に留まる。フランチェスコには既に高貴な正妃ジョヴァンナがいたが、彼はビアンカに強く惹かれ、惜しみなく宝石や金銭を贈って誘惑した。ビアンカの夫ピエトロもメディチ家の宮廷に職を得たが、ややお人好しだったと言われる彼は、次第に宮廷の貴婦人たちとの情事に溺れていった。

夫の死と疑惑

ビアンカとフランチェスコの密会が続く中、夫ピエトロは自身の情事が引き起こしたトラブルから逃れられなかった。1572年、彼はいくつかの女性問題に関連した争いに巻き込まれた結果、フィレンツェの路上で殺害されるという最期を迎える。この死には、ビアンカと大公太子フランチェスコが、邪魔になったピエトロを排除するために裏で手を引いたのではないかという黒い噂が囁かれた。

大公妃の座へ

1574年に父コジモ大公が死去し、フランチェスコがトスカーナ大公に即位すると、彼はもはや隠すことなくビアンカを公然と自身の傍に置いた。正妃ジョヴァンナがいるにもかかわらず、フランチェスコは露骨にビアンカへの寵愛を示し、ジョヴァンナよりも彼女を優遇した。正妃ジョヴァンナが生んだ唯一の男子相続人フィリッポ大公子が、1582年に幼くして亡くなると、ビアンカは自身の立場が極めて危ういことを痛感する。男子後継者のいないフランチェスコのために自分が男の子を産み、次期大公の母となることが、自身の地位を確固たるものにするために不可欠であることを彼女は痛感していた。

再婚、そして晩年の苦悩

1578年に正妃ジョヴァンナが死去すると、フランチェスコは待つことなく、わずか2ヶ月後にはビアンカと正式に結婚し、翌1579年6月10日に公表された。かつて彼女の逮捕を試みたヴェネツィア政府も、トスカーナとの関係維持を優先し、この結婚を公的に祝福するに至った。しかし、待望の男子相続人はビアンカには生まれなかった。彼女は、もし夫であるフランチェスコが先に亡くなれば、メディチ家、特に自身を激しく嫌悪していた弟のフェルディナンド枢機卿（後の大公フェルディナンド1世）によって排除されることを恐れ、フェルディナンドの排除すら画策したと言われている。

謎の急死と遺体の行方

1587年10月、ポッジョ・ア・カイアーノにあるメディチ家の別荘滞在中、ビアンカとフランチェスコは相次いで急死した。この突然の死因については、歴史家たちの間で長らく議論が続いている。毒殺によるものか、あるいは当時流行していたマラリアのような感染症による病死か、意見が大きく割れた。一時砒素中毒説が有力視されたが、フランチェスコに関してはマラリアが死因であった可能性が高いとする研究報告が2010年に発表されている。ビアンカの遺体は、彼女を嫌っていたフェルディナンドの指示により、フランチェスコとは別の場所に埋葬されたとされ、現在に至るまでその正確な場所は不明となっている。ビアンカ・カペッロは、その美貌と波乱に満ちた生涯、そして謎めいた最期によって、今なお多くの人々の関心を引きつける女性である。

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