ビショップ自走砲

ビショップ自走砲：北アフリカ戦線に投入されたイギリスの試行錯誤

第二次世界大戦下、北アフリカ戦線で展開された機動戦に対応するため、イギリス軍は主力火器である25ポンド砲の自走化を急務としました。その結果誕生したのが、バレンタイン歩兵戦車をベースとした自走砲、ビショップです。本稿では、ビショップの開発から運用、そしてその歴史的意義までを詳細に解説します。

開発の経緯

1941年、バーミンガム鉄道客車貨車会社は、25ポンド砲を搭載した新型自走砲の開発を依頼されました。既存のバーチガン18ポンド自走砲の後継として期待されたビショップは、わずか数ヶ月で試作車が完成。同年中には量産命令が発令され、100両の生産が開始されました。しかしながら、この車両には幾つかの問題が潜んでいました。

設計と性能

ビショップはバレンタイン歩兵戦車II型を流用し、砲塔の代わりに装甲板で覆われた固定式の戦闘室を設けました。この戦闘室の形状から、教会の司教が被る冠に例えられ、“ビショップ”の愛称が付けられました。25ポンド砲は直接車体に搭載され、砲身の旋回角はわずか8度に制限されました。これは、砲尾が車体と干渉することを防ぐためです。この設計上の制約から、射程は牽引式の25ポンド砲の半分程度にまで短縮されました。また、密閉式の戦闘室は狭隘で作業性が悪く、高い車高は敵からの発見率を高めるという欠点もありました。搭載弾薬も32発と少なく、戦闘の継続には弾薬運搬車の支援が不可欠でした。機関や変速装置はバレンタイン戦車から流用したため、車体重量の増加にもかかわらず機動力は低いままでした。乗員は車長、操縦手、砲手、装填手の4名です。

運用と評価

ビショップは1942年の第二次エル・アラメインの戦いからイタリア戦線初期にかけて運用されました。しかし、その実戦での評価は芳しくありませんでした。射程の短さ、狭隘な戦闘室、高い車高、そして低い機動性といった問題点が露呈し、同じ25ポンド砲を搭載した牽引式砲と比較しても優位性は見られませんでした。乗員は限られた射界と射程の短さを克服しようと、砲の仰角に地面の傾斜角を加える工夫を凝らしましたが、機動性の低下を招き、かえって運用上の問題を増大させました。

退役とその後

ビショップは、より高性能なM7プリーストやセクストン自走砲が登場すると、前線から退役しました。その後は訓練用車両として使用されるか、一部がトルコに供与されました。短命に終わったビショップでしたが、イギリス陸軍に自走砲という概念を浸透させる上で重要な役割を果たしたことは間違いありません。ビショップの設計上の問題点は、自走砲の開発において考慮すべき要素を改めて浮き彫りにし、その後の自走砲設計に貴重な教訓を与えました。

登場作品

ビショップは、いくつかのゲームやドキュメンタリー作品に登場しています。
『The Tunisia Front (1943)』
『World of Tanks』
『コンバットチョロQ』
『トータル・タンク・シミュレーター』

参考文献

Chris Henry, Mike Fuller - The 25-pounder Field Gun 1939-72, Osprey Publishing 2002, ISBN 1-84176-350-0.
Trewhitt, Philip (1999). Armored Fighting Vehicles. New York, NY: Amber Books. p. 114. ISBN 0-7607-1260-3

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