ビセンテ・アランダ

ビセンテ・アランダ：スペイン映画界の巨匠

ビセンテ・アランダ・エスケラ (1926年11月9日-2015年5月26日) は、スペイン・バルセロナ出身の映画監督、脚本家、プロデューサーであり、スペイン映画史に燦然と輝く巨匠の一人です。貧しい家庭に生まれ、幼少期はスペイン内戦の混乱を経験するなど、波乱に満ちた人生を送りましたが、類まれな才能と情熱で映画界の頂点に上り詰めました。

困難な生い立ちと映画への道

アランダは、アラゴン地方からバルセロナに移住した貧しい大家族の出身でした。7歳の時に父親を亡くし、スペイン内戦勃発時には共和派支持の家庭環境ゆえ、家族で疎開を余儀なくされます。内戦の激しさ、そして貧困はアランダの幼少期に深い影を落としました。義務教育を修了することなく13歳から働き始め、様々な職を転々としたのち、兄と共にベネズエラへ移住。経済的、政治的な理由によるこの移住は、アランダの人生に新たな転機をもたらします。

ベネズエラではアメリカの海運業者やNCRコーポレーションで働き、経済的な基盤を築きます。7年後にスペインに戻り結婚した後、小説家を目指しますが成功せず、カタルーニャの文化人との出会いを通して映画製作への道を歩むことを決意します。国立映画学校への入学は叶いませんでしたが、地元バルセロナで独学によって映画製作を学び、バルセロナ映画学校の創設メンバーとしても活躍しました。

40歳を過ぎての監督デビューと国際的な成功

1966年、40歳にして初めて長編映画『ファタ・モルガーナ』を発表。その後も精力的に作品を制作し続け、1988年には『エル・ルテ』で初となるゴヤ賞監督賞ノミネートを果たします。そして、1991年に発表したフィルム・ノワール『アマンテス／愛人』で、ついにゴヤ賞監督賞と作品賞をW受賞。この作品は、ビクトリア・アブリルやマリベル・ベルドゥといったスペインを代表する女優陣の共演により、国際的な成功を収めます。アブリルはベルリン国際映画祭で主演女優賞を受賞、ベルドゥはフランドル国際映画祭で特別な視点賞を受賞するなど、各方面から高い評価を得ました。この『アマンテス／愛人』は、アランダ監督の最高傑作と称され、スペイン映画の古典として現在も高い評価を得ています。

ゴヤ賞をはじめとする数々の受賞とノミネート

アランダの才能は、ゴヤ賞においても高く評価されました。監督賞には6度のノミネート、1度の受賞。作品賞は1度のノミネート、1度の受賞という輝かしい記録を残しています。その他、脚色賞、脚本賞、ドキュメンタリー賞にもノミネート。カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールにノミネートされ、ベルリン国際映画祭では金熊賞に2度ノミネートされるなど、国際的な映画祭でもその名を轟かせました。1988年にはスペイン映画国民賞を受賞しています。

多彩な作品群と独特の映画世界

アランダは、『アマンテス／愛人』以外にも、『鮮血の花嫁』『セックス・チェンジ』『女王フアナ』『カルメン』など、数多くの話題作を発表しました。その作品群は、時代劇、社会風刺、恋愛劇など多岐に渡り、エロティシズムや暴力といった要素を巧みに織り交ぜた、独特の映画世界を構築しています。

後世への影響

アランダは、40歳を過ぎての監督デビューという遅いスタートにもかかわらず、40年以上に渡って27本の長編映画を監督し、スペイン映画界に多大な影響を与えました。その独特の表現方法や、社会への鋭い視線は、後進の監督たちに大きな刺激を与え続け、現在もスペイン映画界に深い足跡を残しています。彼の作品は、スペインの複雑な歴史や社会、人間の深層心理を鮮やかに描き出し、観る者に深い感動と余韻を与え続けるでしょう。

参考文献

Alvarez, Rosa & Frias, Belen. Vicente Aranda: El Cine Como Pasión. Huelva, XX Festival de Cine Iberoamericano de Huelva, 1994, ISBN 84-87737-04-8
Benavent, Francisco María. Cine Español de los Noventa. Ediciones Mensajero, 2000, ISBN 84-271-2326-4
* （以下、文献リストは省略）

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