ビッグイヤー (電波望遠鏡)

ビッグイヤー

ビッグイヤー（英語名: The Big Ear）は、「巨大な耳」という意味の名を持つ大型の電波望遠鏡です。1963年に建設され、1998年に解体されるまでの長きにわたり、アメリカ合衆国オハイオ州のオハイオ・ウェスリアン大学パーキンズ天文台の敷地に設置されていました。この望遠鏡の最も主要な役割は、オハイオ州立大学が推進する地球外知的生命体探査（SETI）計画において、宇宙からの人工的な信号を探すことでした。

特徴的な構造

ビッグイヤーは、天文学者ジョン・D・クラウス（1910-2004）によって考案された独特な「クラウス型」と呼ばれる構造を採用していました。この形式は、地面に固定された巨大な平面反射板と、その反射板によって集められた電波をさらに集光する二次反射鏡、そして検出器から構成されます。望遠鏡全体を動かすのではなく、地球の自転を利用して天体を観測し、二次反射鏡を動かすことで観測範囲を調整しました。同様の設計思想に基づく電波望遠鏡としては、フランスのナンセー電波望遠鏡が挙げられます。

観測活動とその成果

ビッグイヤーがその歴史の中で最初に行った大規模な観測サーベイは、「オハイオ・スカイサーベイ」と呼ばれます。これは1965年から1970年代初頭にかけて実施され、特定の信号に限定せず、全天の約70パーセントをカバーして2万件もの電波源をカタログ化しました。これは当時の電波天文学において重要な貢献でした。

この初期の広範な探査の後、1973年からはSETIに特化した観測へと重点が移されました。そして、ビッグイヤーの観測史上、そしてSETI研究全体においても最も有名な出来事が起こります。1977年8月15日、ビッグイヤーは極めて強い、狭帯域の電波信号を検出したのです。この信号は、当時の記録用紙に天文学者が驚きを表して「Wow!」と書き込んだことから、「Wow! シグナル」として世界的に知られるようになりました。この信号は地球外の知的生命体からの通信である可能性が真剣に議論され、多くの研究者を魅了しましたが、残念ながらその後同様の信号が再び観測されることはなく、その起源は現在も未解明の謎として残されています。

SETIへの貢献と終焉

ビッグイヤーは、SETIプロジェクトへの長期にわたる献身が評価され、1995年には「最も長期間にわたり地球外知的生命体探査に使用された電波望遠鏡」としてギネス世界記録に登録されました。

しかし、その輝かしい歴史にも終わりが訪れます。ビッグイヤーの運用は1997年に終了し、設置されていた土地は土地開発業者に売却されました。そして、付近のゴルフ場拡張計画の一環として、1998年に巨大な構造物は解体され、姿を消しました。

科学的な探査機器としてだけでなく、ビッグイヤーは文化的にも影響を与えました。その象徴的な形状とSETIとの関連性から、『グランド・セフト・オート・サンアンドレアス』のような人気ゲームや、SFテレビドラマ『Xファイル』などのフィクション作品にも登場し、人々の想像力を掻き立てました。

ビッグイヤーは、SETI研究の歴史において重要な役割を果たした電波望遠鏡として、その功績とともに記憶されています。

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