ビッグドッグ

ビッグドッグ：不整地を駆ける四足歩行ロボット

ビッグドッグ（BigDog）は、アメリカのボストン・ダイナミクス社が開発した四足歩行ロボットです。2005年に、米国防高等研究計画局（DARPA）の資金提供を受け、ジェット推進研究所やハーバード大学との共同研究で開発されました。

開発の背景と概要

ビッグドッグは、起伏の多い地形でも兵士に随伴できる輸送用ロボットとして開発されました。その特徴は、機械とは思えないほど滑らかな歩行動作です。まるで人間が足踏みしているかのように、複雑な地形でもバランスを保ちながら歩行できます。砂利道、雪道、砂浜、浅瀬など、様々な環境で安定した歩行が可能です。

2008年には、横から蹴られても倒れずに姿勢を回復する様子が動画で公開され、その高い姿勢制御技術が注目を集めました。さらに、氷上で足を滑らせても転倒することなく、素早く体勢を立て直す能力も示されました。また、通常歩行の他に、馬のギャロップのように疾走したり、ジャンプして障害物を飛び越えたりする実験も行われました。

2010年には、時速8kmで走る様子が公開され、その運動能力の高さが示されました。DARPAは、ビッグドッグの実用化を目指し、ボストン・ダイナミクス社にLS3（Legged Squad Support System）の開発プロジェクトとして3200万ドルを提供しました。

軍事利用への試みと挫折

2012年からアメリカ海兵隊で運用試験が始まり、音声指示による操作が可能になりました。2014年には実運用開始が予定されていましたが、2015年12月、エンジン音が大きく敵に味方部隊の位置を知られてしまうという理由から、海兵隊はビッグドッグの採用を見送りました。

驚異的な運動能力と構造

ビッグドッグは、15馬力の2ストローク単気筒ガソリンエンジンを搭載し、油圧ポンプを駆動して各脚に4つずつ、計16個の油圧アクチュエータを動かします。これにより、滑らかな歩行を実現しています。初期モデルの駆動音は大きかったものの、後の改良型では静音化が進められました。また、研究室内などでは外部から油圧を供給することも可能です。

制御系にはQNXが採用されており、高度な姿勢制御を可能にしています。GPS機能を使った自動移動や、兵士を認識して追尾する機能も備えています。

ビッグドッグは、154kgの荷物を積載して時速5.3kmで移動でき、後に180kgの荷物を積んで30km（燃料補給1回分）の走破も可能になりました。最大35度の傾斜を登ることもでき、かつて軍馬が担っていた不整地での物資輸送を担う存在として期待されていました。

足には姿勢制御用の接地センサーがあり、レーザージャイロとステレオビジョンで地面の傾きなどを把握します。また、転倒時には半円形のボディを利用して、自力で起き上がることができます。その名前は「大きな犬」ですが、サイズは小型のラバほどで、全長約1m、高さ約70cm、重量は約110kgです。

その他のロボットとの比較

ビッグドッグの開発と並行して、小型化されたリトルドッグ（Little Dog）も開発されました。リトルドッグも不整地での踏破性能が高く、学習機能による接地点の判断や姿勢制御に優れています。また、高速移動に特化したワイルドキャット（WildCat）というモデルも開発されました。

他にも、二足歩行ロボットのPETMANや電気駆動のSpotrobot、SpotMiniなど、特殊用途のロボットの研究が進められています。

まとめ

ビッグドッグは、革新的な四足歩行ロボットとして注目を集めましたが、実用化には至りませんでした。しかし、その技術は他のロボット開発に大きな影響を与え、現在もさまざまな分野でロボット技術の進化に貢献しています。

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