ビッグ・ジョー・ターナー

ミズーリ州カンザスシティで生まれたビッグ・ジョー・ターナー（Big Joe Turner、1911年 5月18日 - 1985年 11月24日）は、恵まれた体格から生み出される力強い歌声で知られるアメリカのブルース・シンガーです。そのパワフルな歌唱スタイルは、「シャウト・ブルース」と呼ばれるジャンルの確立に大きく貢献し、そのパイオニアの一人として位置づけられています。彼の代表曲「シェイク・ラトル・アンド・ロール」は、ロックンロールの歴史における重要な楽曲として、ビル・ヘイリーをはじめ、多くのアーティストにカバーされ、時代を超えて愛されています。

若き日々から「歌うバーテンダー」へ

ターナーの音楽への道は、幼い頃に始まりました。4歳で父親を鉄道事故で亡くした後、教会の聖歌隊に参加したことが、彼が音楽に興味を持つ最初のきっかけとなりました。14歳で学校を辞めると、彼は故郷カンザスシティの賑やかなクラブシーンで働き始めます。当初は歌手として活動していましたが、やがてバーテンダーとして働きながら歌うようになり、「歌うバーテンダー」として街で評判となりました。この頃、彼はブギウギ・ピアノの巨匠、ピート・ジョンソンと運命的な出会いを果たし、以後、彼らは強力な音楽的タッグを組むことになります。

彼らの活動は、音楽プロモーターであるジョン・ハモンドの目に留まり、1938年にはニューヨークへと招かれます。そこで、彼らは歴史的なコンサート「フロム・スピリチュアルズ・トゥ・スウィング」に出演し、ジョンソンとの共演による「ロール・エム・ピート」が大きな反響を呼びました。この成功が、ターナーをプロの音楽家としてのキャリアへと導く転機となります。

プロとしての活躍とレコード契約

1939年、ターナーはヴォカリオン・レコードと契約を結び、「チェリー・レッド」や「ウィー・ベイビー・ブルース」といった初期の重要な楽曲をレコーディングしました。また、ビリー・ホリデイも出演していたニューヨークの著名なクラブ「カフェ・ソサエティ」に常連として出演するなど、彼の名声は確立されていきました。1940年にはデッカ・レコードに移籍し、「パイニー・ブラウン・ブルース」などを録音。この時期には、ピート・ジョンソンだけでなく、ウィリー・'ザ・ライオン'・スミスやフレディ・スラックス・トリオといった他の優れたミュージシャンとも共演し、彼の音楽性はさらに広がりました。

その後、1945年にはナショナル・レコードに移籍し、「マイ・ギャルズ・ア・ジョッキー」や「アラウンド・ザ・クロック」などを制作。また、アラディン・レコードからはワイノニー・ハリスとのスプリット盤「バトル・オブ・ザ・ブルース」がリリースされるなど、様々なレーベルで精力的に活動を展開しました。

アトランティック・レコードでの黄金期

ターナーのキャリアにおける最も輝かしい時期は、1951年にアトランティック・レコードと契約を結んだことから始まりました。カウント・ベイシー・オーケストラと共にアポロ・シアターでパフォーマンスしていた際、レコード会社の創設者であるアーティガン兄弟（ネスヒとアーメット）にその才能を見出されたのです。アトランティック移籍後、彼は次々とヒット曲を生み出しました。

特に、ヴァン・'ピアノ・マン'・ウォールズ・アンド・ヒズ・オーケストラとの共同作業から生まれたアトランティックでのデビューシングル「チェインズ・オブ・ラヴ」は、R&Bチャートで2位を記録するスマッシュヒットとなりました。そして1954年、チャールズ・カルホーンが作曲した「シェイク・ラトル・アンド・ロール」がR&Bチャートの頂点に立ちます。この曲は、黒人コミュニティだけでなく、当時台頭しつつあった10代の白人リスナーにも熱狂的に受け入れられ、ロックンロールの黎明期を象徴するアンセムとなりました。ビル・ヘイリーが間もなくこの曲をカバーして全米ポップチャートでヒットさせたことは、その影響力の大きさを示しています。

アトランティック時代も、ターナーはデビュー当初から変わらない、スウィング感溢れるブルース・スタイルを貫きました。この時期には「フリップ・フロップ・アンド・フライ」や「ハイド・アンド・シーク」といったヒットを連発し、1956年に発表された「コリーニ・コリーナ」はポップチャートでも41位を記録するなど、ジャンルの垣根を越えた人気を博しました。しかし、1958年にリリースされた「ジャンプ・フォー・ジョイ」を最後に、彼のヒット曲は減少し始めます。

後期の活動とレガシー

アトランティックでの絶頂期を終えた後、ターナーは1960年代から1970年代にかけて、ジャズ歌手としての活動に重点を移しました。また、かつて彼の代表曲をカバーしたビル・ヘイリーは、1966年に自身が活動の拠点を置いていたメキシコでターナーがスターになるための支援を行うなど、アーティスト間の交流も続きました。

晩年、ビッグ・ジョー・ターナーはその功績が改めて評価されます。1983年にはブルースの殿堂入りを果たし、その2年後の1985年 11月24日、心臓発作のため74歳でこの世を去りました。彼の死から2年後の1987年には、ロックンロールにおける多大な貢献が認められ、ロックの殿堂のパフォーマー部門に認定されました。

ビッグ・ジョー・ターナーは、その圧倒的な声量と個性的なスタイルでブルースの世界に新風を吹き込み、後のR&Bやロックンロールの発展に不可欠な橋渡し役を果たしました。「シャウト・ブルース」の開祖として、また「シェイク・ラトル・アンド・ロール」を世に知らしめた人物として、彼の名前は今もなお音楽史に深く刻まれています。

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