ビッビエーナ枢機卿の肖像

ビッビエーナ枢機卿の肖像

『ビッビエーナ枢機卿の肖像』（Ritratto del Cardinale Bibbiena）は、盛期ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンツィオが1516年頃に制作した油彩画です。この作品は、ビッビエーナ枢機卿として知られるベルナルド・ドヴィーツィを描いており、現在はフィレンツェのパラティーナ美術館に所蔵されています。

ベルナルド・ドヴィーツィの生涯

ベルナルド・ドヴィーツィは1470年、トスカーナ州のカゼンティーノ地方にあるビッビエーナに生まれました。彼は人文主義的な教養を身につけ、その知識や教養を活かしてさまざまな著名人と交流を持ちました。特に、ロレンツォ・デ・メディチや後の教皇レオ10世となるジョヴァンニ・デ・メディチとの関係は重要です。ドヴィーツィはメディチ家の支援者として知られ、教皇庁の最高記録官や聖堂宝物管理官など高い地位に昇進しました。彼はレオ10世の信任を受けた秘書としても活躍し、ラファエロとは長きにわたる友情を築きました。

作品の特徴

肖像画には、ドヴィーツィが白いローブと赤いシルクのモゼッタ、自身の地位を示す赤いビレッタ帽子を身にまとっている姿が描かれています。彼は右腕を椅子の肘置きに置き、左手には教皇に宛てた書簡を握りしめています。ラファエロは独自の視点を通じて、ドヴィーツィの鋭い表情と知的な眼差しを写実的に捉えています。この作品では、構図の中にピラミッド型を強調し、厚みを持たせたモゼッタと対照的に、前景には細やかなひだを持つ白い袖が広がり、観る者の視線を惹きつけます。

肖像画の最も注目すべき点は、ドヴィーツィの表情の緻密さと彼が持つ知性や権威を引き立てる描写にあります。その結果、作品はラファエロ独自のスタイルを具現化しており、彼の卓越した技術が光っています。

来歴

『ビッビエーナ枢機卿の肖像』は、最初ドヴィーツィ家によって所有されましたが、1637年には大公ジャンカルロ・デ・メディチのコレクションに加わりました。この絵画は、おそらくドヴィーツィ家から贈られたものと考えられています。ジャンカルロが死去した後、彼のコレクションは負債のために競売にかけられ、その後、義理の姉であるヴィットーリア・デッラ・ローヴェレの手に渡ります。ヴィットーリアは生前に息子フランチェスコ・マリーア・デ・メディチに譲渡し、彼の死後、作品はメディチ家の所有となりました。

この作品は長らくあまり研究されずにいましたが、1962年の修復が行われたことで評価が見直されました。制作年については1516年頃であると考えられ、同時期の作品『レオ10世と枢機卿たち』との類似性が指摘されています。

最後に、この作品は1799年にナポレオン軍によってフランスに持ち去られましたが、1815年に返還され、その後1816年にはパラティーナ美術館のサトゥルヌスの部屋に展示されました。

参考文献

• - 『Raffaello ラファエロ』渡辺晋輔責任編集（読売新聞東京本社、2013年）
• - 『イタリア・ルネサンス 都市と宮廷の文化展』アントーニオ・バオルッチ（日本経済新聞社、2001年）

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