ビバリーヒルズ・サパー・クラブの火災

ビバリーヒルズ・サパー・クラブ火災

ビバリーヒルズ・サパー・クラブ火災（Beverly Hills Supper Club fire）は、1977年5月28日夜、アメリカ合衆国ケンタッキー州キャンベル郡サウスゲートで発生した大規模な火災事故である。シンシナティとオハイオ川を挟んで向かい合うこのナイトクラブでの火災により、最終的に165人が死亡、200人以上が負傷するなど、甚大な被害をもたらした。

クラブの背景

火災現場となったビバリーヒルズ・サパー・クラブは、1926年に開業した歴史ある施設だった。初期にはマフィア関係者が経営に携わっていた時期もあり、レストラン、ナイトクラブ、宴会場として、著名な俳優や歌手によるディナーショーが頻繁に開催される一方で、違法賭博が行われることもあったという。後年著名となるディーン・マーティンも、無名時代にここでブラックジャックのディーラーとして働いていたことがある。

1967年以降経営者が変わり、1970年代に入ると大規模な増改築が行われた。しかし、この改修によって建物の内部構造は複雑化し、内装には木材などの可燃性素材が多く使用された。さらに、建物の規模に比べて非常用出入口が著しく不足しており（規定の28箇所に対し17箇所のみ）、その位置も利用者に分かりにくい構造となっていた。これらの点が、後の火災の被害を拡大させる要因となった。

火災の発生

1977年5月28日はメモリアルデーにあたる土曜日であり、キャバレールームでは人気のショーが開催されていた。そのため、クラブ内には当局が許可した収容定員を大幅に超過し、その倍に及ぶ人々（約2,400人以上と推定）が滞在していたとされる。ショーの客が通路やスロープにまで溢れ返るほどの混雑ぶりだった。

一方で、正面玄関近くの特別室（ゼブラルーム）では結婚披露宴が開かれていたが、午後8時過ぎ頃から出席者から床下からの異常な熱さや異音の訴えがあり、予定を早めて午後8時30分に終了した。その直後、特別室から煙が燻っていることに気づいた従業員が、消火器を持って初期消火を試みた。午後9時頃、従業員が特別室の扉を開けたことで空気が供給され、室内の可燃性ガスに引火するフラッシュオーバーが発生。火勢は瞬く間に拡大し、午後9時5分頃には消防への通報が行われた。

避難と被害拡大

火災発生場所に近いメインダイニングなどにいた客や従業員は比較的早く避難できた。しかし、建物には火災報知機すら設置されておらず、複雑な内部構造も相まって、正面玄関から離れた奥側のキャバレールームやガーデンルームにいた多数の客や従業員への火災発生の周知や避難指示は大幅に遅れた。午後9時6分頃にようやくキャバレールームへ火災発生が伝えられたが、火の手は瞬く間に広がり、2階への階段やキャバレールームの非常口付近にまで到達。およそ1,000人いたとされるキャバレールームの滞在者が安全に避難するには、すでに手遅れに近い状況だった。

さらに、火災発生直後にクラブ全体の電源が途絶えたことで場内は暗闇となり、人々はパニックに陥った。わずかに残された、あるいは発見できた非常口を目指して、逃げようとする人々が殺到し、将棋倒しが発生した。駆けつけた消防士たちも、外部からの消火活動と並行して建物内部からの救出を試みたが、密集した群衆の中から一人ずつ引き出すのが精一杯であったと後に証言している。クラブは全焼し、翌29日午前2時頃にようやく鎮火した。

調査と影響

火災発生当初、多数の死者が出た原因はパニックにあるとする報道がなされたが、後にアメリカ合衆国防火協会が行った詳細な調査では、一部でパニックが見られたとしても、それが犠牲者急増の主因ではないと結論づけられた。調査報告は、クラブ側に多数の致命的な安全上の欠陥があったことを明らかにした。

具体的には、

建物の規模に比して複雑すぎる内部構造
非常用出入口の著しい不足とか分かりにくさ
スプリンクラー設備、火災報知機、防火壁といった基本的な防災設備の欠如
不適切な電気配線
建築基準を満たさない構造
従業員に対する適切な防災訓練の不足

などが指摘された。また、地元の消防当局も建物の安全上の問題点を認識しながらも、改善を強制する権限が不十分だった点も問題視された。

この火災により、現場から164人の遺体が収容された。その後、重体だった従業員1人が翌1978年3月1日に死亡し、最終的な犠牲者は165人となった。負傷者も200人を超える未曽有の惨事である。

火災後、遺族や被災者による大規模な集団訴訟が起こされ、施設の運営者の責任を厳しく問う先駆けとなった。また、地元紙クーリエ・ジャーナル（Courier-Journal）のリチャード・ウィット記者は、この火災に関する一連の報道で、1978年にピューリッツァー賞を受賞している。

クラブの跡地には、2020年に複合商業施設を含む再開発計画が持ち上がっており、その中には火災の犠牲者を悼む追悼施設の設置も含まれている。

もう一度検索