ビメンチン

ビメンチン

ビメンチン（英語: vimentin）は、真核細胞の細胞骨格を構成する中間径フィラメントと呼ばれるタンパク質の一つです。特に間葉系に由来する細胞で豊富に見られることが特徴です。

分布と役割

ビメンチンは、結合組織を構成する線維芽細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、骨・軟骨細胞、神経鞘細胞といった細胞に広く分布し、細胞の形態維持や構造を支える細胞骨格として機能していると考えられています。また、リンパ球やマクロファージなどの血液細胞、中枢神経系のアストロサイトにも存在が確認されています。

病理診断においては、ビメンチンとサイトケラチンに対する特異抗体を用いた免疫組織化学的染色が、腫瘍の鑑別に重要な役割を果たします。これにより、上皮性か非上皮性かの判断の指標とされます。

発見の歴史

ビメンチンは1970年代後半、ドイツのマックス・プランク生物物理化学研究所の研究者たちによって発見されました。彼らはマウス培養細胞から、分子量約57,000の新しい細胞骨格タンパク質を精製し、抗体を用いた解析から、間葉系細胞に特徴的な中間径フィラメントであることを見出しました。このタンパク質がビメンチンと命名されました（Franke WW et al., 1978）。このグループは中間径フィラメント研究を牽引し、精製されたタンパク質や開発された抗体は、その後の研究や病理診断の基盤となりました。

抗体とその応用

ビメンチンに対する特異的な抗体は、その研究や診断への応用を大きく進めました。例えば、1984年に作製されたブタ由来ビメンチンに対するモノクローナル抗体は、様々な動物種で反応性を示しました（Osborn M et al., 1984）。現在、クローンV9などが広く利用されています。また、病理診断で一般的なホルマリン固定パラフィン包埋組織標本に対しても、抗原賦活化技術により免疫組織化学的染色が容易になり、診断ツールとして日常的に活用されています。

生理機能に関する現在の理解

かつてビメンチンは、細胞の形態維持に必須の構造タンパク質と考えられていました。発生過程や細胞分化におけるその豊富な発現も、その重要性を示唆していました。しかし、ビメンチンを持たないマウス（ビメンチン欠損マウス）がほぼ正常に発生・生育することが報告され（Colucci-Guyon et al., 1994; Galou et al., 1996）、この古典的な理解は見直しを迫られています。同様の結果は他のIF欠損マウスでも見られます。これらの知見は、中間径フィラメントが単独で機能するのではなく、他の細胞内要素との複合的な相互作用を通じて役割を果たしている可能性を示唆しています。生体内で豊富に存在するにも関わらず、ビメンチンの詳細な細胞生理機能や、病態における具体的な役割については、未だ十分に解明されていません。

結び

ビメンチンは間葉系細胞の主要な中間径フィラメントであり、病理診断に広く利用されています。しかし、細胞内での精密な機能については、遺伝子欠損研究などから従来の考え方では捉えきれない側面があることが明らかになっています。今後の研究によって、その生理機能や病態との関連性がさらに深く理解されることが期待されます。

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