ビリャフランカ侯爵夫人マリア・トマサ・デ・パラフォクスの肖像

『ビリャフランカ侯爵夫人マリア・トマサ・デ・パラフォクスの肖像』

フランシスコ・デ・ゴヤの作品『ビリャフランカ侯爵夫人マリア・トマサ・デ・パラフォクスの肖像』は、1804年に制作された油彩画で、現在はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。この肖像画は、スペインのロマン主義の雰囲気が色濃く反映されており、描かれているのは第12代ビリャフランカ侯爵フランシスコ・デ・ボルハ・アルバレス・デ・トレドの妻、マリア・トマサ・デ・パラフォクスです。

人物像

マリア・トマサ・デ・パラフォクスは1780年に生まれ、アリーサ侯爵の息子フェリペ・アントニオ・パラフォックス・イ・クロイと第6代モンティーホ女伯爵マリア・フランシスカ・デ・サレス・ポルトカレロの娘です。彼女は高度な教育を受けて育ち、絵画にも興味を持ち、アマチュア画家として活動しました。1805年には王立サン・フェルナンド美術アカデミーの名誉会員に選ばれ、女性の芸術家としての地位を確立しました。彼女は1798年に夫と結婚し、6人の子どもをもうけましたが、1835年に亡くなっています。

作品の特徴

ゴヤはこの作品において、マリア・トマサを一人の画家として表現しています。肖像画の中で、彼女は白いエンパイアスタイルのドレスを着て、自信に満ちた姿勢で赤いシルクの肘掛け椅子に座っています。彼女の足は同色の足置きの上に乗せられており、髪型や金の髪飾りは当時のファッションを反映しています。画面の中では彼女自身が夫の肖像画を描いている様子が描かれており、完成した作品を誇らしげに見つめています。

絵具が置かれたテーブルには、パレットや筆、溶き油の容器が並び、まるで創作の最中にいるかのような生き生きとした雰囲気を醸し出しています。光が左から差し込むことで、夫人が描いている肖像画の存在感が際立ちます。ここでゴヤは意図的に視線の配置を使い、夫婦の愛情を表現しています。夫人は実際には夫を見つめていますが、キャンバスの中の夫は一心に妻を見つめており、彼らの深い絆が感じられます。この構図は、ディエゴ・ベラスケスの名作『ラス・メニーナス』を彷彿とさせるもので、ゴヤが意識的に描き出したものと考えられます。

画面上の情報

テーブルの上のパレットにはマリア・トマサの名前が刻まれており、ゴヤの署名と制作年は椅子の肘置きに表記されています。このように、ゴヤは自身の役割と同時に、夫人の画家としての威厳も強調しています。

来歴

完成後、作品は王立サン・フェルナンド美術アカデミーで展示された後、ビリャフランカ侯爵家に受け継がれました。第14代ビリャフランカ侯爵とその家族によって世代を超えて守られ、最終的には息子たちによってプラド美術館に遺贈されました。しかし、ニエブラ伯爵の未亡人は1926年までその所有権を保持していました。

このように、ゴヤの絵画は単なる肖像以上のものであり、人物の関係性や愛情、さらには妻の芸術家としての立場を示す奥深い作品となっています。

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