ビル・ウィルソン

ビル・ウィルソン：アルコール依存症克服運動の父

ビル・ウィルソン（本名ウィリアム・グリフィス・ウィルソン、1895年-1971年）は、アメリカで誕生したアルコール依存症回復のための自助グループ『アルコホーリクス・アノニマス』(AA)の共同創設者として広く知られています。一般にはビル・W.と呼ばれ、アルコール依存症からの回復を支援する12ステップモデルの開発に中心的な役割を果たし、世界中のアルコール依存症克服運動に計り知れない影響を与えた人物です。

平凡な少年時代からウォール街へ

バーモント州で生まれたウィルソンは、ごく普通の少年時代を過ごしました。しかし、第一次世界大戦での兵役中、大量飲酒に依存するようになります。戦後、ウォール街で活動するも、株式ブローカーとしては成功しませんでした。

転機：オックスフォードグループとの出会い

ウィルソンの生活に転機が訪れたのは、旧友のエビー・サッチャーとの再会でした。サッチャーは、飲酒をやめ、オックスフォードグループという宗教的な集まりに参加していました。オックスフォードグループは、精神的な体験を通してアルコール依存症からの回復を支援するグループです。

サッチャーの勧めにも関わらず、ウィルソンは飲酒を続け、ついには入院する事態に陥ります。入院中、ウィルソンは「スピリチュアルな体験」をし、アルコールへの依存が消滅したのです。この経験から、自身の回復体験を他の人々に伝えたいと決意します。

ボブ・スミスとの出会い：AAの誕生

オックスフォードグループに参加し、アルコール依存者の支援活動を始めますが、なかなか成果は上がりませんでした。ある日、商取引で訪れたオハイオ州アクロンで、深い失望から再び酒に手を伸ばそうとしたウィルソンは、代わりに電話で教会の修道女に連絡を取ります。そこで、同じ問題を抱える者同士で語り合うことの重要性に気づき、電話帳から探し出した外科医、ボブ・スミスと出会います。

ボブ・スミスもアルコール依存に苦しんでおり、ウィルソンと語り合った結果、二人でアルコール依存者のための自助グループを作ることを決意します。これが、1935年6月10日、AAの誕生の瞬間です。

AAの普及と12ステップモデル

数年後、AAはアクロンとニューヨークを中心に広がり、多くの回復者を数えるようになりました。ウィルソンは自身の経験に基づいた本を執筆し、その中で12ステッププログラムを体系化しました。これは、オックスフォードグループの考え方をアルコール依存症回復に特化したものです。1939年に出版された『アルコホーリクス・アノニマス』というこの本は、当初はあまり注目されませんでしたが、後に『サタデー・イブニング・ポスト』紙の記事で取り上げられ、全国的に知られるようになりました。

12の伝統：AAの維持

AAが成功を収める中で、ウィルソンは過去の類似団体がなぜ失敗したのかを研究し、「12の伝統」を確立しました。これは、AAの運営方法や理念を明確に示すもので、AAの継続的な発展に貢献しました。また、ウィルソン自身は匿名性を重視し、「ビル・W.」として活動するようになりました。

後年の活動と遺産

ウィルソンは生涯を通じて、うつ病や精神疾患にも苦しみました。晩年には、LSDを使ったアルコール依存症治療の可能性を探る研究にも携わりました。しかし、この研究はその後中止されました。彼は1971年にフロリダ州で死去しました。

ウィルソンの功績は、世界中に広がったAAを通じて現在も活きています。彼の物語は、1989年のTVドラマ『我が名はビル・W』として映像化されるなど、広く人々に知られています。タイム誌が選ぶ20世紀の100人にも選出されており、その影響力は絶大です。AAは、数多くのアルコール依存症者の回復に貢献し、現代の自助グループ運動の基礎を築いた、歴史的な組織と言えるでしょう。

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