ビーバー (特殊潜航艇)

ビーバー（Biber）: 第二次世界大戦におけるドイツの特殊潜航艇

ビーバーは、第二次世界大戦中にドイツ海軍が開発した特殊潜航艇であり、同海軍が保有した潜水艦の中で最も小型の部類に入ります。主な任務は、連合国軍の輸送船団に対する沿岸部での攻撃で、外部に装着された2本の53cm魚雷または機雷を武器としていました。

開発の経緯

連合国軍がヨーロッパへの上陸作戦を本格化させる中、その脅威に対抗するための補助戦力として、ビーバーは急遽開発されることになりました。しかし、開発期間の短さから、技術的な基礎部分に欠陥が多く、また操縦員の訓練も不十分なまま実戦に投入されることとなりました。

試作艇の建造は1944年2月に開始され、わずか6週間で完成しました。この試作一号艇は「ブンテボート（Bunteboot）」、または「アダム（Adam）」と呼ばれ、イギリスのウェルマン潜水艇の影響を強く受けていました。全長が約2メートル短いなど、最終的な設計とは異なる点もありましたが、5月29日にトラーヴェ川でテストが行われ、その後24隻のビーバーが発注されました。

設計の特徴

船体は厚さ3mmの鋼板を3つのセクションに分けて結合し、上部にはアルミニウム合金製の司令塔が鋲接されました。司令塔には防弾ガラスの窓が設けられ、操縦者が外界を視察できるようになっていましたが、水中翼と舵は木製であり、深度計、コンパス、潜望鏡からの情報を基に操縦することは非常に困難でした。また、補正とトリムを制御するタンクがなかったため、潜望鏡深度を維持することもほぼ不可能でした。

兵装としては、中性浮力状態でTIIIc魚雷2本、または機雷2発、もしくはそれらの組み合わせを搭載できました。

浮上航走時には、32馬力のオペル・ブリッツ用ガソリンエンジンが使用されました。このエンジンは安価で大量生産されていた一方、一酸化炭素中毒の危険性も孕んでいました。潜航中の推進力は、13馬力の電気モーターと3基のT13 T210バッテリーによって供給されました。

戦歴

ビーバーの作戦は、小型潜航艇と高速爆破艇を運用するドイツ海軍小型戦闘部隊の支援のもとで実施されました。当初、操縦者の訓練期間は8週間を予定していましたが、最初のグループはわずか3週間で訓練を終え、実戦に投入されました。作戦は通常1日から2日で終了し、その間、操縦者はD-IX（コカインをベースとした覚醒剤）やカフェイン入りのチョコレートを使用していました。

フェカン港湾

1944年8月30日、フェカン港からビーバーの初陣が行われました。22隻が出撃しましたが、港湾を離れることができたのは14隻のみで、さらに作戦海域に到達できたのはそのうちの2隻に過ぎませんでした。

スヘルデ河口での作戦

1944年12月、スヘルデ河口のアントワープへの輸送に対する攻撃にビーバーが投入されました。ロッテルダムを基地とし、PoortershavnとHellevoetsluisに前進基地が置かれました。最初の攻撃は12月22日から23日の夜間に行われましたが、18隻が投入され、生還したのはわずか1隻でした。この作戦で連合軍が被った損害は、貨物船アラン・A・デールのみでした。その後の作戦も成功せず、1945年1月には事故による魚雷の誤射で11隻が沈没する事態も発生しました。

Vaenga湾への攻撃企図

1945年1月には、コラ半島のVaenga湾への攻撃が企図されました。目標は、同港に停泊中の輸送船団やソ連戦艦アルハンゲリスク（旧HMS ロイヤル・サブリン）でしたが、攻撃予定時には目標が存在せず、作戦は中止されました。

残存艇

現在、数隻のビーバーが博物館に展示されています。その中には、航行可能な状態にまで修復されたものも存在します。

• - ビーバーNo.90: ロンドンの帝国戦争博物館に展示されています。この艇は1944年12月29日にドーバーの北東で発見され、乗員は一酸化炭素中毒で死亡していました。
• - ビーバーNo.105: イギリスのゴスポートにある王立海軍潜水艦博物館が所有しています。この艇は可動状態にあり、唯一完全に作戦可能な第二次世界大戦の潜水艦であるとされています。

その他、オランダやドイツの博物館にもビーバーが展示されています。

結論

ビーバーは、第二次世界大戦末期にドイツが開発した小型潜航艇でしたが、技術的な問題や訓練不足から、戦果は限定的でした。しかし、その特異な形状や運用方法から、現在でも多くの人々の関心を集めています。

もう一度検索