ビーントゥーバー

ビーントゥーバーとは

ビーントゥーバー（Bean to Bar）は、カカオ豆の選定からチョコレートの完成まで、すべての工程を一人の作り手が一貫して行うチョコレートの製造方法です。この製法は、2000年代初頭にアメリカで生まれ、2010年代に入ると日本でも専門店が増加しました。小規模な製造者が多いことから比較的高価な商品が多いですが、大手企業によるリーズナブルな商品も登場しています。

起源と普及

1990年代半ば、大手メーカーのチョコレートに満足できなくなったアメリカのチョコレート愛好家たちが、自分たちでカカオ豆からチョコレートを作ろうとしたのがビーントゥーバーの始まりです。従来のチョコレート製造では、チョコレートメーカーはクーベルチュールという既に加工されたチョコレート原料を購入し、それを製品化していました。一方、ビーントゥーバーでは、カカオ豆の選定から焙煎、粉砕、成形まで、すべての工程を自社で行います。これにより、カカオ豆本来の風味を最大限に活かした、個性的なチョコレートを生み出すことができます。

ビーントゥーバーの普及に大きく貢献したのは、2007年にニューヨークで創業した「マストブラザーズ」です。彼らは、手作業でのチョコレート製造にこだわり、カカオ豆の品質や製法に徹底的に配慮することで、高品質なチョコレートを作り上げました。この成功により、ビーントゥーバーはアメリカだけでなく、世界中に広まりました。

ドム・ラムジーの著書『CHOCOLATE』（2017年）によると、アメリカだけでも300社以上のビーントゥーバーメーカーが存在します。製造機械のコスト低下などにより、アメリカ以外でもビーントゥーバーは広がりを見せ、2010年代には日本でも約100ブランドの専門店が登場しました。

ビーントゥーバーチョコレートの魅力

チョコレート探検家のチョコレートくんによると、ビーントゥーバーチョコレートの魅力は「カカオ豆が持つフレーバーをダイレクトに感じられる」点にあります。カカオ豆は、産地や品種、発酵方法によって風味が大きく異なります。例えば、マダガスカル産はベリーのような風味、ジャワ島産はスモーキーな風味が特徴です。ビーントゥーバーチョコレートは、カカオ豆と砂糖というシンプルな材料だけで作られるため、カカオ豆の個性がストレートに表現されます。そのため、一つとして同じ味はなく、食べるたびに新しい発見があると言われています。

一般的に、ビーントゥーバーチョコレートは高価な商品ですが、株式会社明治が発売した「明治ザ・チョコレート」のように、大手企業がスケールメリットを活かしたリーズナブルな商品も登場しており、コンビニエンスストアでも手軽に購入できるようになりました。チョコレートくんは、コンビニで手に入るビーントゥーバーチョコレートについて、「カカオ豆の特徴を生かしたチョコレートがどうすごいのかを示し、ビーントゥバーを知らなかった人の心までつかみとった」と評価しています。

今後の展開

チョコレートくんによると、一部のビーントゥーバーの作り手は、カカオバターの特性を活かした「カカオが香るホワイトチョコレート」の開発に力を入れています。通常のホワイトチョコレートは、カカオバターを脱臭処理する際にカカオの香りが失われてしまいます。これに対し、ビーントゥーバーでは、未脱臭のカカオバターを使用するか、カカオマスから搾油して得られたカカオバターを使用することで、カカオの芳香が残るホワイトチョコレートを作ろうとしています。

さらに、カカオ豆の栽培にまで踏み込んで、生産者と連携する「ファームトゥーバー」または「ツリートゥーバー」という動きも出てきています。これは、生産地の状況を確認したり、生産者にカカオ豆の発酵方法を伝えたり、現地の雇用を支援したりする活動を通じて、より高品質なカカオ豆の確保を目指す取り組みです。また、これらの活動は、カカオ豆の生産を持続可能なものとし、SDGsの達成にも貢献すると期待されています。

ビーントゥーバーは、チョコレートの新たな可能性を広げ、ますます多様な味わいと魅力を私たちに届けてくれるでしょう。

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