ピアノソナタ (ゴドフスキー)

レオポルド・ゴドフスキー（Leopold Godowsky, 1870-1938）が1911年に完成させた『ピアノソナタ ホ短調』（Piano Sonata in E Minor）は、しばしばその壮大な規模から『グランドソナタ』という別名でも知られています。約54分という演奏時間を要するこの作品は、ゴドフスキーのピアノ音楽の中でも特に重要な位置を占めるものの一つです。

このソナタは、五つの楽章から成り立っています。第一楽章はアレグロ・マ・ノン・トロッポ、マ・アパッショナートと指定され、ホ短調、4分の4拍子で書かれています。情熱的な性格を持つこの楽章は、作品全体の幕開けを飾ります。続く第二楽章は、ト長調、4分の3拍子によるアンダンテ・カンタービレ。歌うような旋律が特徴の緩徐楽章です。第三楽章はアレグレット・ヴィヴァーチェ・エ・スケルツァンド、ロ短調、4分の2拍子で、軽快かつ活気のあるスケルツォ楽章としての役割を果たします。第四楽章はアレグレット・グラツィオーソ・エ・ドルチェ、ト長調、4分の3拍子。優雅で甘美な雰囲気を帯びています。そして、終楽章は最も複雑な構成を持ち、「回想：レント、メスト - ラルゲット・ラメントーソ - フーガ：モルト・エスプレッシーヴォ（リステッソ・テンポ） - マエストーソ・ルグーブレ」と多岐にわたる速度・性格標語が与えられています。ホ短調を基調としつつ、拍子も4分の4拍子から8分の6拍子、再び4分の4拍子へと変化し、回想的な部分、哀愁を帯びた部分、精緻なフーガ、そして荘厳で悲壮な結びへと展開していきます。

この作品は、その技術的な要求の高さと音楽的な深みから、挑戦しがいのあるレパートリーと見なされてきました。かつては録音の機会が限られていた時期もあったようですが、近年では技巧派として知られる多くのピアニストたちが積極的にこのソナタを取り上げて録音しています。例えば、ジョフリー・ダグラス・マッジによる世界初録音を皮切りに、アダム・アレクサンダー、マルカンドレ・アムラン、カルロ・グランテ、ミヒャエル・シェーファー、ラディスラフ・ファンツォヴィツ、ベンクト＝オーケ・ルンディン、コンスタンティン・シチェルバコフ、ムーザ・ルバツキテといった著名な演奏家たちが、それぞれ個性的な解釈を披露しています。これらの録音の増加は、この作品に対する現代の関心の高まりを示唆しています。

また、ゴドフスキーの『ピアノソナタ ホ短調』は、クラシック音楽の枠を超えた影響も見せています。日本の音楽ユニットであるALI PROJECTが2008年にリリースした楽曲『コトダマ』と『わが﨟たし悪の華』には、本作の第一楽章からインスピレーションを得た、あるいはモチーフとして使用した要素が含まれていることが知られています。

このように、ゴドフスキーの『ピアノソナタ ホ短調』は、その壮大な構成と表現の多様性、そして演奏上の困難さから、ピアニストにとって特別な意味を持つ作品であり続けています。多くの録音を通じてその存在が広く知られるようになり、現代の音楽シーンにおいても新たな形で言及されるなど、その価値は時代を超えて再認識されています。

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