ピアノソナタ第3番 (シューベルト)

フランツ・シューベルトが1816年の夏、具体的には8月に作曲したとされるピアノソナタが、このホ長調 D 459です。この作品はシューベルトの生前には出版されず、彼の死後、約17年を経た1843年に初めて世に出されました。

作品番号と構成に関する特異性

この作品は、その名称や構成について特別な経緯を持ちます。シューベルトの兄であるフェルディナントは、この楽曲群を「5つのピアノ曲（Fünf Klavierstücke）」として出版元に紹介しました。そして実際に1843年に出版された際も、この「5つのピアノ曲」というタイトルで刊行されています。

作品番号D 459についても、歴史的に見解が分かれてきました。シューベルト作品の研究者であるオットー・エーリッヒ・ドイッチュが作成した年代順の作品表題目録（D番号）の初版においては、この「5つのピアノ曲」全て、すなわち5つの楽章全体をD 459として分類していました。しかし、シューベルト自身がこの楽曲群のうち、最初の2つの楽章に対してのみ「ソナタ」と記していたことが判明しています。この事実から、後の3つの楽曲をソナタの一部と見なすべきか、あるいは独立した作品として扱うべきかという議論が生まれました。その結果、ドイッチュ作品表の第2版以降では、この解釈が反映されています。現在広く受け入れられている分類では、最初の2楽章のみをピアノソナタ第3番 D 459として扱い、それに続く3つの楽曲は「3つのピアノ曲 D 459a（Drei Klavierstücke）」として別の作品番号を与えられ、区別されています。

このような経緯から、この作品は演奏される際や議論される際に、全体で5楽章として捉えられる場合と、ソナタとしての2楽章とそれに続く3つの独立した小品として捉えられる場合があることを理解しておく必要があります。

各楽章の解説

上記のように、構成は通常2楽章と見なされることが多いですが、関連深い3つの楽曲を含めて5つのパートとして解説します。

1. 第1楽章 アレグロ・モデラート
ホ長調、4分の4拍子。ソナタ形式で書かれています。楽章はホ長調の主和音の響きで幕を開けます。提示部、展開部、再現部という標準的なソナタ形式の流れを辿りますが、展開部は比較的簡潔に構成されています。この楽章の大きな特徴の一つとして、再現部における主題の提示方法が挙げられます。通常のソナタ形式では、再現部では提示部と同じ主題を主調で繰り返すのが慣例ですが、この楽章では主調であるホ長調ではなく、下属調であるイ長調で第1主題が再現されます。これはシューベルトのソナタにおける個性的な処理の一つと言えます。

2. 第2楽章 アレグロ
ホ長調、4分の3拍子。三部形式（A-B-A'）によります。楽章の冒頭では、ユニゾン（複数のパートが同じ音を演奏すること）による特徴的な主題が提示されます。また、右手のパートにおいてオクターブで旋律を奏でる部分が多く見られることも、この楽章の表現上の特色として挙げられます。

3. 第3楽章（D 459a-1）アダージョ
ハ長調、8分の3拍子。形式は小ソナタ形式（提示部、展開部、再現部を持つ簡略化されたソナタ形式）と考えられます。ゆったりとしたテンポで、歌うような美しい旋律が特徴的な、抒情的な楽章です。

4. 第4楽章（D 459a-2）スケルツォ・コン・トリオ：アレグロ
イ長調、4分の3拍子。スキップするような軽快なスケルツォ楽章です。中間部にあたるトリオはニ長調に転じ、スケルツォ部分とは対照的な雰囲気を見せます。

5. 第5楽章（D 459a-3）アレグロ・パテーティコ
ホ長調、4分の4拍子。「パテーティコ」は「悲愴な」「感情的な」といった意味合いを持ちますが、この楽章はホ長調で書かれており、情熱的でありながらも明るさも感じさせるフィナーレ楽章です。

もう一度検索