ピアノ協奏曲第1番 (サン＝サーンス)

ピアノ協奏曲第1番 ニ長調 作品17

カミーユ・サン＝サーンスが作曲した一連のピアノ協奏曲の第一作にあたる作品です。若き日のサン＝サーンスがその才能と先見性を示した初期の重要な楽曲として知られています。

概要

この協奏曲は1858年、作曲家がまだ23歳の時に書かれ、1860年にパリのサル・プレイエルにて、サン＝サーンス自身のピアノ独奏によって初めて披露されました。当時、フランスにおいては本格的なピアノ協奏曲の創作はまだ少なく、本作によってサン＝サーンスはそうしたジャンルを開拓した先駆者の一人として評価されるようになりました。

同時期、サン＝サーンスはパリ随一とされるマドレーヌ教会のオルガニストに就任するなど、演奏家としてのキャリアは順調に進んでいました。しかし、作曲家としての評価は必ずしも容易なものではありませんでした。

フランスの若手音楽家にとって最大の栄誉であるローマ大賞に二度挑むも、いずれも受賞を逃しています。これは、当時の審査員たちが好む伝統的で保守的な様式に対し、サン＝サーンスの先進的な音楽性が合致しなかったためと考えられています。ローマ大賞の課題は声楽を含むものであり、この協奏曲とは形式こそ異なりますが、彼の独創的な音楽観自体が当時の保守的な音楽界には受け入れられにくかった状況がうかがえます。

こうした保守的な傾向は、この協奏曲をはじめとする器楽作品への評価にも影響を与えました。本作に見られる緻密な構築性、形式にとらわれない自由な発想、そして独奏ピアノと管弦楽が対等に渡り合い、時に管弦楽が主導権を握るような様式は、当時の批評家から「ドイツ主義」として批判されることが多かったのです。しかし皮肉にも、これらの特徴こそが、サン＝サーンスがフランスの器楽音楽を発展させる上で果たした重要な役割を象徴しています。

楽譜は作曲から時を経て、1875年に出版されました。この作品は、著名なピアニストであったマリー・ジャエル夫人に献呈されています。

楽器編成

独奏ピアノ
フルート 2
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2
ホルン 2
トランペット 2
ティンパニ
* 弦五部

構成

本作は伝統的な3楽章構成をとっていますが、各楽章にはサン＝サーンスならではの創意工夫が凝らされています。全体の演奏時間は25分から30分程度です。

第1楽章 Andante - Allegro assai

ニ長調、4分の4拍子。序奏を伴うソナタ形式です。フォンテーヌブローの森に霊感を得たと言われる、ホルンが単独で奏でる主題にピアノのアルペジオが応える幻想的な序奏で始まります。主部であるAllegro assaiでは、このホルンの動機が主要主題となります。ピアノは一時伴奏に回り、ヴァイオリンによって経過主題が提示された後、第二主題はピアノが提示しますが、これは序奏に既に示唆されていた要素です。その後、主要主題の断片を用いた展開部を経て、再び序奏の断片が現れると、定型的な再現部に入ります。

第2楽章 Andante sostenuto quasi adagio

ト短調、4分の4拍子。展開部を持たないソナタ形式によります。両端の楽章とは対照的な、静謐でエキゾティックな雰囲気を持つ楽章です。特徴的なのは、第一主題部の終わりに挿入されるピアノのカデンツァで、特に提示部においてはその演奏時間がかなりの部分を占めます。このカデンツァは、コーダにも再び現れます。

第3楽章 Allegro con fuoco

ニ長調、2分の2拍子。「火のように速く」という意味の指示が付けられた、自由なソナタ形式による終楽章です。第一主題はピアノと管弦楽が交互に奏でながら提示されます。第二主題は断片的に扱われた後、すぐに展開部に入ります。再現部では、第一主題が通常の形で再現された後、第二主題が大きく拡張され、楽章全体のクライマックスを形成します。コーダでは、第1楽章の序奏主題が再び顔を出し、楽曲全体を統一すると同時に、華やかに締めくくられます。

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