ピアノ協奏曲第1番 (スタンフォード)

チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードによる「ピアノ協奏曲第1番ト長調 作品59」は、1894年10月18日にその姿を完成させた楽曲です。全3楽章で構成され、演奏時間はおよそ38分に及びます。

作曲の背景と評価

この協奏曲は、当時のイギリスを代表するピアニストの一人であったレオナード・ボーウィックのために作曲されました。スタンフォード自身はこの作品について、同時代の音楽の潮流とは一線を画し、「明るく、まるで蝶が舞うような」音楽であると述べています。これは、彼が自らの作品に込めた軽やかさや優雅さを示す言葉と言えるでしょう。

出版と初演を巡る逸話

傑作にもかかわらず、このピアノ協奏曲が楽譜として生前に出版される機会は訪れませんでした。そして、その初演は、後世に語り継がれる面白い逸話と共に記録されています。

初演は1895年3月27日に行われました。指揮台に立ったのは名匠ハンス・リヒター、そして独奏ピアノは献呈相手であるレオナード・ボーウィックが務めました。しかし、初演時のプログラム構成は非常にヘビーなものでした。チャイコフスキーの劇的な「悲愴交響曲」や、ワーグナーの情感豊かな「トリスタンとイゾルデ」からの抜粋（「前奏曲とイゾルデの愛の死」など）が演奏された後に、この協奏曲が披露されたのです。

この状況を振り返り、スタンフォードはユーモラスにこう表現しました。それはまるで、七面鳥やコーンビーフのようなボリュームのある料理をたっぷり堪能した後に出された、繊細なヴォローヴァンのようだ、と。つまり、聴衆がすでに満腹状態で、彼の軽やかな作品を楽しむ余裕がなかったことを示唆しているのです。この辛辣でありながら的確な比喩は、当時の聴衆の反応や、プログラム編成の妙（あるいは不適切さ）を如実に物語っています。

初演後も、この協奏曲は再演の機会を得ました。1895年12月30日にはドイツのベルリンで、さらに1897年にも再び演奏されています。

楽曲構成

本作品は以下の3つの楽章から構成されています。

第1楽章：Allegro comodo（アレグロ・コモド）
第2楽章：Adagio molto（アダージョ・モルト）
* 第3楽章：Allegro e giocoso（アレグロ・エ・ジョコーソ）

各楽章は、作曲者自身が評したような明るさと優雅さを兼ね備え、ピアニストの技巧とオーケストラの響きが見事に溶け合った音楽世界を織りなしています。初演時のプログラム構成という不運はあったものの、スタンフォードの第1番ピアノ協奏曲は、その後の再評価によって、彼の主要な管弦楽作品の一つとして認識されるようになっています。

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