ピアノ協奏曲第14番 (モーツァルト)

ピアノ協奏曲第14番 変ホ長調 K. 449

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって作曲されたピアノ協奏曲第14番 変ホ長調 K. 449は、彼の創作活動における重要な転換期に生まれた傑作の一つです。

概要

1784年、ウィーンでの生活が3年目を迎えたモーツァルトは、この1年間だけで6曲ものピアノ協奏曲を世に送り出すという驚異的な創作力を発揮しました。これらはK. 449である本作に始まり、第15番から第19番（通称『第2戴冠式』）までの番号を持つ作品群であり、彼のピアニスト兼作曲家としての名声を一層高めることとなりました。

当時、モーツァルトはウィーンの音楽界において既に揺るぎない地位を確立しており、まさに寵児ともいえる存在でした。特に特筆すべきは、彼がこの年から初めて自身の作品を記録する『自作品カタログ』を作成し始めたことです。このカタログの記念すべき最初の項目に記されたのが、この第14番のピアノ協奏曲だったのである。

この作品は1784年2月9日に完成され、モーツァルトの弟子の一人であったバルバラ・フォン・プロイヤー嬢のために作曲されました。プロイヤー嬢は、ウィーンに駐在していたザルツブルク宮廷の連絡官、ゴットフリート・イグナーツ・フォン・プロイヤーの令嬢であり、同年3月23日には彼女自身の邸宅で本作を披露しています。

ただし、その演奏に先立つ3月17日、モーツァルト自身が予約演奏会で初演を行い、会場に詰めかけた多くの聴衆から熱狂的な称賛を浴びたと伝えられています。この初演の成功は、作品の質の高さを証明するとともに、モーツァルトの演奏家としての卓越した技量を改めて示すものでした。

楽器編成

この協奏曲は、以下の楽器のために書かれています。

独奏ピアノ
オーボエ 2
ホルン 2
ファゴット（任意）
* 弦楽五部（ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

ファゴットが任意とされている点は、編成の柔軟性を示唆しています。

曲の構成

全3楽章で構成されており、全体の演奏時間は約20分です。特筆すべき点として、大編成のオーケストラだけでなく、弦楽四重奏のみの伴奏でも演奏可能であるという特性を持っています。

第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ

変ホ長調、4分の3拍子、協奏的ソナタ形式。

モーツァルトのピアノ協奏曲において、第1楽章が3拍子で書かれているのは極めて珍しい特徴です。オリジナルの作品としては、本作の他にわずか2曲（第11番 K. 413、第24番 K. 491）しか存在せず、その中でも特にこの第14番は躍動感のある3拍子を効果的に用いています。

提示部にはモーツァルト自筆によるカデンツァが残されており、これは演奏家にとって大変貴重な資料となっています。

第2楽章 アンダンティーノ

変ロ長調、4分の2拍子、三部形式。

穏やかなテンポで奏されるこの緩徐楽章は、基本的には三部形式（A-B-A'）を採っています。しかし、内部構造としては二つの明確な主題を持ち、中間部（B部分）も同じ楽想が異なる調性で展開されるなど、ソナタ形式のような調性配置の妙も見られます。

この楽章には、モーツァルト特有の深く、そしてどこか哀愁を帯びた抒情性が満ち溢れており、後の傑作群（例えばピアノ協奏曲第23番の緩徐楽章など）を予感させるような美しい音楽が展開されます。

第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ

変ホ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）から8分の6拍子へ変化、ロンド形式。

快活な主題を中心に、二つの異なるエピソードが挿入されるロンド形式で書かれています。楽章の最後、コーダに至ると拍子が8分の6拍子へと変わり、軽快な踊りを思わせるようなリズムと楽想で、華やかに全曲を締めくくります。この拍子の変化は、聴衆に強い印象を与える効果的な手法と言えるでしょう。

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