ピアノ協奏曲第26番 (モーツァルト)

ピアノ協奏曲第26番 ニ長調 K. 537

モーツァルトが1788年に作曲したピアノ協奏曲第26番ニ長調（K. 537）は、『戴冠式』という愛称でも知られています。この作品は、ウィーンの音楽界の厳しい現状を背負って生み出されたもので、その背景には、モーツァルト自身の苦悩や厳しい経済状態が色濃く反映されています。

作曲の背景

モーツァルトの自作目録によれば、彼は1788年2月24日にこの曲を完成させたと記録しています。当時、モーツァルトはウィーンの聴衆の嗜好に合った作品を書くことを避け、そのため彼の予約演奏会に集まる聴衆は僅か一人に留まるという孤立した状況にありました。ニ長調の協奏曲もこの時期に作曲された一つであり、1787年の初めには第1楽章が既に取り組まれていたものの、会員が集まらず、完成までに時間がかかりました。

1789年の4月には、モーツァルトはドレスデンで行われたサクソン選帝侯の妻アマーリエのための演奏会においてこの協奏曲を披露しています。その後、1790年10月15日にはフランクフルト・アム・マインで神聖ローマ皇帝レオポルト2世の戴冠式の場で演奏され、このことから『戴冠式』の名が付けられました。改めて演奏会の成功を期して訪れたフランクフルトでは、演奏開始から長時間にわたる緊張の中、聴衆をやきもきさせる出来事もありました。この演奏会は、モーツァルトにとって経済状態の改善を期待した重要なものでしたが、残念ながら十分な成果は得られませんでした。

様式と構造

この協奏曲は、独特な特徴を持つ作品であり、ほとんどの部分でピアノ独奏の左手部分が未記入という特殊な状態が見られます。第1楽章冒頭の独奏でも左手のパートが欠けており、第2楽章については完全に書かれていません。このため、モーツァルトのピアノ協奏曲の中で、ここまで完成度が低いものは他には存在しないと言われています。1794年の初版ではこの左手のパートが補完され、アインシュタインをはじめとする研究者たちは、その補完作業が出版者によるものであると考えています。

楽器編成と楽曲の特徴

また、この作品は特に楽器編成においても特徴があります。トランペットとティンパニは後から加えられており、モーツァルトのウィーン時代のほかのピアノ協奏曲に比べ、冒頭から管楽器の存在感が薄いことは注目に値します。曲は全3楽章構成で、演奏時間は約32分。

第1楽章: アレグロ

この楽章は、ニ長調で4分の4拍子となっており、協奏風ソナタ形式で構成されています。その展開部では、主題提示部の小結尾が繰り返し展開されていきます。

第2楽章: ラルゲット

イ長調のこの楽章は、2分の2拍子で三部形式の構造を持っています。

第3楽章: アレグレット

再びニ長調に戻り、4分の2拍子のロンド形式で展開されます。

評価と影響

モーツァルトの音楽がその時代背景や作品の発展にどのように影響を与えたのかを考えると、ついにこの協奏曲は彼のピアノ協奏曲の中で十分に評価されていないとの見解が近年強まってきています。過去には、特に19世紀において非常に高く評価されたこともあり、オイレンブルク版の校訂者であるフリードリヒ・ブルーメの言葉を借りれば、モーツァルトのピアノ協奏曲の中で最も知られ、頻繁に演奏されるものとして名を馳せていました。

モーツァルトの第26番ニ長調K. 537は、彼の音楽の多様性や、逆境を乗り越えた創作の象徴として、今でも多くの人々に愛され続けています。

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