ピアノ四重奏曲第2番 (モーツァルト)

ピアノ四重奏曲第2番 変ホ長調 K.493

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが手がけた「ピアノ四重奏曲第2番 変ホ長調 K.493」は、彼の室内楽作品の中でも特に親しみやすい魅力を放つ一曲です。

作曲背景と出版経緯

この作品は、先に完成されたピアノ四重奏曲第1番 ト短調 K.478に続いて、1785年の終わり頃に着手されました。しかし、第1番の出版を巡る楽譜出版者との問題に加え、オペラ『フィガロの結婚』の作曲作業に追われる日々が続いたため、作品の完成は少々遅れ、最終的に1786年の6月3日にようやく日の目を見ることとなりました。

完成後、当初出版を予定していたホフマイスター社は、残念ながら第1番の楽譜の売れ行きが思わしくなかったことを理由に、第2番の出版を見送ります。これによりモーツァルトは契約を解除し、翌1787年になって、別の出版者であるアルタリア社からこの第2番が出版される運びとなりました。

作品の特色

前作である第1番が、短調特有の緊迫感や陰影に富んだ雰囲気を纏っているのに対し、この第2番は同じピアノ四重奏曲でありながら、全く異なる性格を持っています。変ホ長調という明るい調性のもと、作品全体に流れるのは、豊かな抒情性と、どこか大らかで朗らかな雰囲気です。重苦しさはなく、希望に満ちた光を感じさせる、非常に魅力的な楽曲と言えるでしょう。

楽曲構成

全3楽章で構成されており、全曲を通しての演奏時間は約34分です。

第1楽章：アレグロ

変ホ長調、4分の4拍子。ソナタ形式によって書かれています。冒頭から力強く、重厚な響きが特徴的で、そこから広がりを感じさせる音楽的な世界が展開されます。ピアノと弦楽器が織りなすアンサンブルは、まさに厚みのある響きを生み出し、聴く者を作品世界へと引き込みます。

第2楽章：ラルゲット

変イ長調、8分の3拍子。この楽章もソナタ形式を採用していますが、その雰囲気は第1楽章とは一変します。ほとんど全ての部分が弱音で奏されるのが大きな特徴で、非常にデリケートで繊細な美しさに満ちています。静謐でありながらも豊かな抒情性を湛えた、印象的な緩徐楽章です。

第3楽章：アレグレット

変ホ長調、2分の2拍子。快活な流れを持つロンド形式のフィナーレ楽章です。ガヴォットを思わせるような、軽やかで魅力的な主要主題を中心に楽曲が組み立てられています。ピアノの華麗なパッセージが巧みに織り込まれており、作品の最後を飾るにふさわしい、明るく輝かしい音楽で締めくくられます。

この第2番は、第1番とは対照的な魅力を持ちながらも、モーツァルト円熟期の室内楽の傑作として、今日も多くの人々に愛され続けています。

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