ピアノ四重奏曲第3番 (ブラームス)

ヨハネス・ブラームスが作曲したピアノ四重奏曲第3番ハ短調 作品60は、彼のピアノ四重奏曲の中で3番目に世に問われた作品です。

この曲の起源は古く、ブラームスがまだ若い1855年頃まで遡ります。彼はこの四重奏曲を、後に第1番や第2番として発表される他の作品に先駆けて、1856年4月には一度「嬰ハ短調の四重奏曲」として完成させていました。著名なヴァイオリニストであるヨーゼフ・ヨアヒムを交えて試演も行われたものの、ブラームス自身はこの初期稿に満足せず、結局この作品は約20年もの間、公表されることなく温められました。

その後、1873年から1874年にかけて、ブラームスは本作に大規模な改訂を施します。これには、全体の調性を嬰ハ短調からハ短調へ移すこと、楽章単位での大幅な書き換えなどが含まれていました。そして、現在の形で完成された作品は1875年に出版に至ります。

初演は出版と同じ1875年の11月18日にウィーンで行われました。演奏は、ブラームス自身がピアノを務め、当時の著名な弦楽四重奏団であったヘルメスベルガー四重奏団のメンバー、すなわちヨーゼフ・ヘルメスベルガー（ヴァイオリン）、ジークムント・バハリヒ（ヴィオラ）、ダーヴィト・ポッパー（チェロ）という豪華な顔ぶれで行われました。

この作品には、作曲家の内面や当時の状況を巡るエピソードが付随しています。出版に先立ち、ブラームスが楽譜出版社ジムロックに対して「楽譜の表紙には、頭にピストルを向けている男を描くといいでしょう」と語ったという逸話は特に有名です。この発言や、初期稿の作曲時期がロベルト・シューマンの自殺未遂から死去に至る時期と重なること、そしてブラームスとクララ・シューマンとの複雑な関係性などが関連付けられ、時にこの作品はゲーテの悲劇の主人公になぞらえて「ウェルテル四重奏曲」と呼ばれることもありました。

楽曲は全4楽章で構成されており、標準的な演奏時間は35分前後です。

第1楽章　Allegro non troppo
ハ短調、3/4拍子。ソナタ形式で書かれています。ピアノのハ音から静かに始まり、二度下降する音形が中心となった第1主題が、陰鬱な色合いをもって提示されます。この主題が力強く確保された後、ピアノによって変ホ長調の第2主題が奏でられます。この主題は8小節からなり、その後すぐに4つの変奏が続くという特徴的な構造を持っています。提示された主題を基にした展開部に続き、再現部では第1主題が極度に短縮された形で現れ、第2主題はト長調に移されて再現されます。第2主題は提示部とは異なる変奏を経て、ハ短調のコーダへと向かい、静かに楽章を閉じます。

第2楽章　Scherzo. Allegro
ハ短調、6/8拍子。三部形式による、エネルギッシュなスケルツォです。執拗なアウフタクトや跳躍を含む音形が特徴的です。中間部は、明確なトリオではなく、主部の動機を用いて展開されるような性格を持っています。主部が回帰した後、楽章はハ長調で力強く終結します。

第3楽章　Andante
ホ長調、4/4拍子。ソナタ形式によります。チェロが歌う瞑想的な旋律で開始され、後にヴァイオリンがそれに加わります。ロ長調で現れる第2主題は、リズムの変化を伴いつつ対位法的な要素も持ち合わせています。短い展開部を経た後の再現部では、両主題に装飾や変奏が加えられています。

第4楽章　Finale. Allegro comodo
ハ短調、2/2拍子。ソナタ形式です。ピアノの絶え間ない動きに乗って、ヴァイオリンが第1主題を提示します。このピアノの音形には、ベートーヴェンの「運命」の主題を思わせるリズムが含まれており、これは経過句においてよりはっきりと扱われます。変ホ長調の第2主題は、コラール風の響きを持つ弦楽器によって奏でられ、ピアノは経過句から引き継いだ音形でそれに合いの手を入れます。第1主題を中心に展開される展開部を経て、ほぼ定型的な再現部が続きます。コーダに入ると力は徐々に弱まりますが、最後はハ長調に転じて力強く終止符を打ちます。

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