ピエール・ド・ランクル

ピエール・ド・ランクル：狂気の魔女狩り

ピエール・ド・ランクル（1553年 - 1631年）は、フランス王国の判事、監察官であり、その名は魔女狩りの歴史において、マシュー・ホプキンスと並び悪名高い存在として刻まれています。彼は、時の国王アンリ4世からラブール地方の監察官に任命され、魔女狩りを主導し、600人以上の無実の女性を魔女として処刑したと自称しています。

歪んだ正義感

元々ボルドー高等法院の判事であったランクルは、1599年の聖地巡礼の旅で、裸の少女が魔術によって少年に変身する場面を目撃したと主張します。この出来事が現実であったかどうかは定かではありませんが、この体験が彼の心に歪んだ正義感を植え付け、魔女根絶への異常な執念を燃え上がらせました。

アンリ・ボゲの「魔女論」に触発された彼は、アンリ4世からラブール地方の監察官に任命されると、その職務に没頭し、魔女狩りを本格的に開始します。

拷問による自白の強要

ラブール地方で、ランクルはイギリス人、スペイン人、フランス人を含む多くの女性を、魔女の疑いがあるという理由で次々と逮捕しました。彼は逮捕した女性たちに、魔女に関する目撃談を強引に語らせ、拷問部屋へと連行しました。そこでは、肉体的、精神的、そして性的拷問が繰り返され、彼女たちは虚偽の自白を強要されたと伝えられています。

ランクルの犠牲者のほとんどは少女や若い女性であり、中には10歳の少女も含まれていました。彼はマシュー・ホプキンスと同様に、「魔女の印」を探すため、全裸にした女性たちの全身を針で刺して検査しました。少女たちは悪魔との性交渉について尋問されましたが、性経験がないため答えることができませんでした。するとランクルは、性交渉の方法を誘導尋問し、悪魔との交わりを供述させたのです。そして、魔女と認定された人々は次々に火あぶりにされ、処刑されていきました。

破門の危機と晩年

ランクルがあまりにも少女や若い女性ばかりを逮捕し、拷問することに対し、教会からも疑問の声が上がり、破門されかけましたが、彼は魔女狩りの職務を続行しました。1613年、ランクルは600ページにも及ぶ著書「悪しき天使とデモンの無節操一覧」を書き上げ、「600人以上の魔女を焼き殺した」と自称し、78歳で天寿を全うするまでそれを誇りにしていたといいます。

ただし、600人以上の魔女を処刑したという数字は、ランクル自身の妄想か誇張であると考えられています。

狂気の真相

ランクルが魔女狩りに没頭した理由については、厚い信仰心によるものという説の他に、抑圧された性欲を拷問という形で少女たちを痛めつけることで発散させていたという説も存在します。拷問がほとんどランクルの独断で行われていたことから、女性をレイプし、口封じのために拷問して獄中死させ、殺害していたというのが真相である可能性も指摘されています。

ピエール・ド・ランクルは、狂信的な信仰心、抑圧された欲望、そして権力が結びついた時に生まれる、人間の心の闇を象徴する存在と言えるでしょう。

参考文献

• - 歴史の謎を探る会『怖くて読めない世界史』河出書房新社、2006年初版

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