ピション川

ピション川は、旧約聖書の創世記2章10-14節に登場する、エデンの園から分かれて流れる四つの川の一つとして記述されています。聖書には「ピション」という名前の意味が具体的に記されていませんが、「多数」を意味すると解釈されることがあります。

創世記によれば、ピション川は「ハビラの全地を巡」って流れていました。このハビラが現在のどの地域を指すのかは定かではありませんが、金、芳香、紅玉などが産出する豊かな地であったとされています。ピション川が具体的にどの川を指すのかについては、様々な説が存在し、確定的なことは分かっていません。

古代のユダヤ人歴史家ヨセフスは、『ユダヤ古代誌』の中で、ピション川をインダス川であるという見解を示しました。これは、当時の地理的認識や、インダス川流域の豊かな資源に基づいた推測と考えられます。

現代の聖書学者の中にも、ピション川の特定について様々な意見があります。U・カーストは、ピション川とギホン川をナイル川を形成する二つの流れであると仮定しました。また、E・A・シュパイザーは、エデンの園に到達する以前に、既に四つの川が存在し、それらがエデンで合流して園を潤していたという解釈を提唱しています。この解釈では、ピション川はエデンの園の源流の一つであったと考えられます。

別の説では、ピション川とギホン川は、現在は乾燥して存在しない涸れ川である可能性も指摘されています。これは、地殻変動や気候変動によって川の流れが変わったり、消滅したりすることがあるため、十分に考えられる説です。

ピション川の特定は困難を極めますが、その存在は、エデンの園の物語をより深く理解するための重要な要素の一つです。聖書の記述、古代の記録、現代の学説などを総合的に考察することで、ピション川が象徴する意味や、古代世界の地理認識について、より深く掘り下げることができます。

このように、ピション川は、単なる川の名前としてだけでなく、古代の地理、歴史、神話が複雑に絡み合った、謎に満ちた存在として、私たちに多くの示唆を与えてくれるのです。

参考文献
『新聖書辞典』いのちのことば社、1985年
舟喜信「創世記」『新聖書注解』いのちのことば社、1978年

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