ピット砦

ピット砦：戦略拠点と裏切り、そして悲劇の歴史

ピット砦は、現在のペンシルベニア州ピッツバーグ市に位置していた、イギリス植民地軍が建設した軍事拠点です。この砦は、アメリカ先住民の領土に建設され、その歴史は、植民地支配と先住民との複雑な関係を象徴しています。

フレンチ・インディアン戦争と砦の建設

18世紀、イギリスとフランスは北アメリカ大陸の植民地を巡って激しく争っていました。この争いは、原住民インディアンを巻き込み、両国は彼らを代理戦争に利用しました。イロコイ連邦やカタウバ族、チェロキー族はイギリス側につき、デラウェア族やショーニー族などはフランス側と同盟を結びました。彼らは両国から武器や弾薬の供給を受け、戦火に巻き込まれていきました。

ピット砦の場所には、もともとフランス軍が築いたデュケイン砦がありました。1755年、イギリス軍はデュケイン砦を奪取しようとしましたが、モノンガヘラ川でフランス軍の反撃に遭い、多くの死者を出しました。その後、1758年にイギリス軍は再び攻撃を仕掛け、フランス軍は砦を放棄し破壊しました。この戦略的に重要な場所に、新たに建設されたのがピット砦です。

イーストン条約と裏切り

イギリス軍がデュケイン砦を攻略できた背景には、この地域のインディアン部族がイギリス軍と「イーストン条約」を結び、フランス軍との同盟を破棄したことがありました。デラウェア族やショーニー族などの部族は、「デュケイン砦の攻略が終われば、イギリス軍は自分たちの領土から立ち去る」という約束を信じていました。彼らは白人との交易拠点としての砦を望んでいましたが、イギリス軍の駐屯は望んでいませんでした。

しかし、イギリス軍はインディアンとの約束を破り、この地に新たな砦を建設し、「ピット砦」と名付けました。この裏切り行為は、インディアンたちの不信感を招き、後の紛争の火種となります。

ポンティアック戦争と細菌戦

1763年、イギリス軍の裏切りに憤慨したデラウェア族やショーニー族は、領土奪回のために「ポンティアック戦争」を起こし、イギリス軍を追い出そうとしました。インディアン連合はピット砦を包囲しましたが、砦の防御は堅く、力攻めでは落とせませんでした。

この時、イギリス軍は恐るべき手段に出ます。インディアンとの和平交渉の席で、ピット砦の指揮官は天然痘に汚染された毛布をデラウェア族の酋長たちに贈りました。これは、インディアンへの感染と死を意図した細菌戦でした。この謀略の結果は定かではありませんが、インディアン連合は包囲を解き、ピット砦はイギリス軍によって開放されました。しかし、この細菌戦は、イギリス軍の残虐さを象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

その後のピット砦

ポンティアック戦争後、ピット砦はイギリス軍にとって不要となり、1772年には放棄されました。しかし、その後、この地域はバージニア植民地とペンシルベニア植民地の間で所有権を巡る争いが起きました。一時的にバージニア植民地が占領し、ダンモア砦と改名された時期もありました。

また、ピット砦は1774年の「ダンモアの戦争」ではイギリス軍の拠点となり、アメリカ独立戦争では西部戦線の本部として機能しました。

現在、ピット砦の跡地には、フォートピットブロックハウスというレンガ造りの防塞が残っています。これはピッツバーグだけでなく、西ペンシルベニアで最古の白人建築物であり、アメリカ独立戦争の娘達によって保存されています。また、発掘された砦の基礎の一部と再建された部分が、公園として公開されています。ピット砦博物館では、当時の歴史を学ぶことができます。

まとめ

ピット砦は、単なる軍事拠点というだけでなく、植民地支配と原住民インディアンとの複雑な関係を象徴する場所です。砦の建設は、先住民の領土を侵略し、彼らの信頼を裏切った結果でした。また、細菌戦という非人道的な行為は、歴史の中で繰り返されてはならない教訓を私たちに示しています。ピット砦の歴史を学ぶことは、過去の過ちを反省し、より良い未来を築く上で重要な意義を持っていると言えるでしょう。