天然痘

天然痘（Variola）

天然痘は、天然痘ウイルス（Variola virus）を原因とする感染症であり、古くから人類に影響を与えてきました。この疾患は、全身に膿疱を形成し、高い致死率を誇っています。感染者は飛沫感染や接触感染を通じて他者にウイルスを拡散させ、感染力は特に強力です。

臨床像と症状

天然痘ウイルスは、ポックスウイルス科に属するDNAウイルスで、直径は約200ナノメートルに達し、非常に大きなウイルスの一つです。歴史的にはラクダから人間へと感染が広がったと考えられており、これによって天然痘ウイルスが形成されたとされています。この病気は人間のみが宿主であり、病歴には古代の文献でもその存在が確認されるほどです。

天然痘に感染すると、7から16日の潜伏期間を経て症状が現れます。初期症状には、約40℃の高熱、頭痛、腰痛などが含まれ、発熱の3日目から4日目にかけて皮膚に豆粒状の丘疹が出現します。7日から9日目には再度高熱が出現し、膿疱が形成されます。この膿疱は体表だけでなく、内臓にも影響を与え、重篤な状態に進行することがあります。

治癒に向かう過程では、膿疱は瘢痕（あばた）を残して完治し、その後は免疫が形成されます。この免疫は、二度と感染することを防ぐ役割を果たします。天然痘ウイルスの感染力は非常に高く、患者のかさぶたからもウイルスが排出され、長時間感染力を持つことが知られています。

歴史的背景

天然痘の起源は不明ですが、最古の記録としては紀元前1350年のヒッタイトとエジプトの戦争の際の記録があります。また、エジプト王ラムセス5世のミイラにも天然痘の痘痕が見られます。古代の文献には、天然痘に関する記録が数多く存在し、さまざまな歴史的出来事と密接に関連しています。

イスラム教の聖典『クルアーン』においても、570年のエチオピア軍のメッカ襲撃に関連する伝承があり、そこでは天然痘が疫病として描かれています。

ヨーロッパでは、紀元前430年の「アテナイの疫病」が天然痘であったと考えられ、多くの人々が命を落としました。12世紀以降、天然痘はヨーロッパにおいて広まり、ルネサンス期には以前にも増してその影響が顕著でした。

アメリカ大陸においては、コロンブスの上陸に伴い、先住民族に深刻な被害をもたらしました。天然痘は人口の過半数を減少させ、アステカ帝国とインカ帝国の滅亡を引き起こす一因となったと考えられています。

発展と根絶

天然痘に対する防御策の一つとして「種痘」が開発され、これは牛痘ウイルスを用いた初のワクチン接種法です。エドワード・ジェンナーによって1796年に成功を収め、その後、世界中に広まりました。この手法により、20世紀中に天然痘は徐々に根絶を見ました。1980年には世界保健機関が天然痘根絶を公式に宣言しました。これにより、天然痘は人類が完全に根絶した唯一の感染症となったのです。

現在の懸念

天然痘の根絶後、ウイルスは厳重に管理されていますが、依然として生物兵器としての利用の懸念が残ります。天然痘ウイルスの在庫は、アメリカとロシアの研究施設で管理されており、適切な取り扱いが求められています。しかし、近年には不適切な取り扱いが報告されるなど、管理の重要性が再度指摘されています。

現在も天然痘ウイルスに類似したウイルスの危険性が研究されており、引き続き監視が必要な状況です。人類史におけるこの感染症の影響を知り、その教訓を活かすことが求められています。

もう一度検索